■儲け話に目の色を変える団地の主婦を演じた『弁護人

 イ・ジョンウン扮するアパート住まいの主婦は、自宅で友人と談笑しているとき、突然やってきた不動産専門弁護士(ソン・ガンホ)を最初はいぶかしんでいた。しかし、手土産のパイナップルで警戒心を解き、弁護士がこの家を高値で買いたいと言い出すと態度が一変。友人を帰してしまう。

「ジュースでもいかが?」と猫なで声で言うが、弁護士に「化粧の続きをなさったら?」と言われて慌てふためく。儲け話に目がくらみ、片方の目しかメークしていなかったことも忘れていたのだ。

 実利優先の釜山アジュマらしい演技は説得力抜群だった。こんな対応は標準語だとちょっと嫌味だが、愛嬌のある釜山弁、しかも片目だけメークしたイ・ジョンウンなので笑ってしまう。

■葬儀会場の修羅場シーンで存在感を放った『母なる証明

 筆者がイ・ジョンウンを初めて認識した作品だ。のちに『私たちのブルース』で共演するキム・ヘジャ扮する容疑者(ウォンビン)の母が被害者の葬儀会場にやってきて、「息子は殺していません」と言う。イ・ジョンウンはそれを迎える親戚という難役に挑んだ。

 葬儀会場という抑えた演技が要求される状況設定。相手は凄まじい目力の大ベテラン女優。考えただけでも胃が痛くなる修羅場の演技を、彼女は怒りを通り越してあきれたような笑顔と、胸倉をつかんで会場から押し出そうとする力技でみごとに演じ切った。

 ちなみに、この修羅場を平手打ちひとつで治めた、くわえタバコの妊婦役は、『涙の女王』でキム・スヒョン扮する主人公ヒョヌのオンマを演じたファン・ヨンヒである。