あまたの韓国時代劇でよく見られる世子(セジャ)の描き方は、朝鮮王朝時代の「次代の君主」らしいエリート像であった。幼いころから帝王学を身に着け、儒教を体系的に学び、官僚たちにまったく弱みを見せない……それが、当時の理想的な世子の姿だ。
しかし、『青春ウォルダム~運命を乗り越えて~』の主役となっている世子のイ・ファン(パク・ヒョンシク)は、従来の世子の描き方とは違っている。具体的に、どこが違うのか。そのあたりを明らかにしてみよう。
なお、本作は『青春ウォルダム 呪われた王宮』というタイトルで、NHK BSP4KとNHK BSで放送中である。(以下、一部ネタバレを含みます)
■『青春ウォルダム』でパク・ヒョンシク扮する世子の魅力とは?
朝鮮王朝の世子は国王に次ぐナンバー2である。
もし国王が亡くなれば自動的に世子が次の国王になっていく。それだけに、世子は朝鮮王朝でも国王に次ぐ重要な位置を占めていて、東宮(トングン)という特別な官庁を従えている。一般的な例で言うと、世子は5歳くらいに正式に冊封されて10歳前後で結婚をしている。そして、世子夫婦は年長者を敬う生活を続けて、早めに子供をもうけて子孫を絶やさないようにしていく。
また、世子は将来の国王に備える立場として、特に儒教的な素養が重視された。中国の古典を勉学し、国を治める方法論を徹底して鍛えていった。それだけに思想は保守的であり、従来の慣例を常に踏襲した。逆に言うと、目新しいことをしてはいけないのである。あくまでも前例に従う生き方を重んじていた。
そういう世子の典型的な概念から考えると、『青春ウォルダム』のイ・ファンは本当に異質な人物である。
もともと彼は世子として帝王学を授かったわけではなく、兄が亡くなったことで急に世子に推挙された。それなのに、「呪いの書」が突然舞い込んできて「兄を殺して世子になった」と非難されてしまった。このことはイ・ファンにとって、とてつもない屈辱であったことだろう。
とはいえ、『青春ウォルダム』に描かれているイ・ファンは、非常に進歩的な考え方の持ち主である。朝鮮王朝の儒教が陥っていた男尊女卑的な考え方もなく、むしろ女性を尊重する立場を取っていた。