朝鮮第16代王・仁祖の治世。女は戦乱を生き延びることより、貞節を守ることこそが第一とされたこの時代。偏見にさらされても強く生きようと胸を張るヒロインと、そんなヒロインを全力で守ろうとする主人公の決して揺るがない愛を描く『恋人〜あの日聞いた花の咲く音〜』(以下、『恋人』)。この数年、ロマンスものから遠ざかっていたナムグン・ミンが新鋭アン・ウンジンとともに、力の限りを尽くして打ち立てたロマンス史劇の金字塔ともいえる本作。いまや韓国ドラマ界をけん引し、後輩俳優たちの信頼と尊敬を一身に背負うナムグン・ミンに撮影現場秘話をうかがった。(記事全2回のうち後編)

■「アン・ウンジンとの相性はばっちり。キャラクターが乗り移ったように動く監督の情熱にいつも動かされる」

――『恋人』はもちろん、良い作品を見抜く力がある印象です。作品を選ぶ基準にしていること、心惹かれるポイントのようなものがありますか?

「閃きかな。面白さの基準は人によってさまざまでしょうが、自分が面白いと思う部分、それを満足させられるならやってみようと思いますね。初めて『恋人』の台本を読んだ時もとても面白いし、しっかりしていると思って、その3日後ぐらいにはやるとお話ししました」

――ナムグン・ミンさん的『恋人』の面白さをあげていただけますか?

「僕は、このドラマの特性が、その細かい構成にあると思います。ドラマがうまくいくためには下準備として、まず叙事と内容が必要です。それがないと、その後の話が無意味になってしまうんですよ。前半、特に第1話では僕はあまり登場しません。ギルチェが住む村がどんな村で、どんな人々がいて、と見せつつ、僕が少しずつ登場し始めます。そんな前半の少しゆったりした場面などは、すべて後半のための伏線だと思って見ていただければ、きっと最後まで感動の涙を流しながら楽しく視聴できると思います」

ー―イ·ジャンヒョンという人物がよく表されているセリフや場面などがあったら教えてください。

「この時代、女性は貞節を守ることが非常に重要です。そんななか、敵に辱められたギルチェをどうするかという話が出る。僕はそこでどんなセリフを言うのか、台本を読みながらすごく気になったんです。だから『つらいだろうから抱きしめてやる』というセリフを読んだとき、とにかく涙が出て止まりませんでした。ギルチェ(アン・ウンジン)もそれを読んですごく泣いたそうです。それが、イ·ジャンヒョンの愛の深さを見せてくれるセリフじゃないかと思います」

――ドラマを見ると、涙を流さない場面でも2人がずっと涙ぐんで見えました。

「そうなんです! アン·ウンジンは僕が知っている女優の中でも本当によく泣く女優だと思います。これほど泣ける女優がいるのかと思うくらいよく涙を流していて、また涙の量も多くて、ぽたぽたと落ちるほどなんです。僕は男だから、彼女の前ではそれほど泣くシーンは多くないんですが、彼女がいないところで泣いたり、あるいは泣きそうになっても我慢して涙を隠さなければならないシーンが多かったですね」

『恋人〜あの日聞いた花の咲く音〜』(C) 2023MBC