昨年の12月に泊まったのは個室のあるゲストハウスだった。ソウルに着いたのは夜だった。安国駅の近くだった。路地の奥にある宿で、入口がなかなかみつからずに路地のなかを何回も往復した。土産物屋の脇にある小さなドアがみつかったときには、体が冷え切っていた。

 メールで送られてきた暗証番号を押して宿に入った。部屋に入ると、その温かさに救われたような気になった。宿が部屋の暖房を入れておいてくれたのだ。おそらく外は氷点下の気温だったはずだ。

 午前零時をまわっていた。その日は日本から飛行機に乗り、ソウルでの打ち合わせがあった。疲れていた。僕はそのまま寝てしまった。

 翌朝、目が覚めると、喉が痛かった。

「まずい……」

 ソウルの宿はだいたい床暖房である。スイッチは壁の床近くにあることが多い。探すとドア脇にあった。25度の設定になっていた。

 部屋の温かさは保たれたが、湿度のことはすっかり忘れていた。それだけソウルの寒さは厳しかったということか。

 喉の痛みは消えなかったが、その日、体調が大きく崩れることもなかった。しかしその夜、悪寒が襲ってきた。ゲストハウスだから、個室といってもトイレは共同だ。そこに行くとき、ブルッと体が震えた。

 急いで部屋にあったタオルを水に浸した。それを軽く絞り、床に敷いた。(つづく)

ゲストハウスの共有スペースの台所でタオルを濡らした。これで風邪を引かずにすむのだろうか