冬のソナタ』が圧倒的な人気を得た2002年から数年間、韓国のテレビ局はどのような制作環境でドラマを作っていたのだろうか。

 筆者は、2004年11月に、当時のKBSドラマ映像チームのチーフ監督だったパク・ヒファン氏に取材した。彼は、長くKBSの映像部門のエースとして活躍し、韓国のテレビ歴代最高視聴率(65・8%)を獲得した『初恋』(1996~1997年)の撮影監督も務めていた。

■韓国KBS局のドラマ映像監督が語った制作秘話と、俳優ペ・ヨンジュンチェ・ジウの思い出

 1つのドラマの撮影スタッフはどのような構成になっていたのだろうか。KBSの一般例をパク・ヒファン氏は次のように説明してくれた。

「ドラマ1本を制作するのに放送局の職員はPD(プロデューサーを兼ねる監督)がいて、そこに契約職のアシスタントが6人つきます。撮影監督には補助が3人いて、映像チームは合計4人になります。また、野外撮影の場合は野外照明チームが7人、クレーンなどを扱う裝備チームが4人、それに小道具チーム、衣裳チーム、メークアップチームのスタッフが揃います。

 このように、野外撮影だけでスタッフは40人ほどになりますが、KBSの職員は、PDと撮影監督だけ。それ以外は契約職になるでしょう。スタジオ制作の場合はもっと人数が必要であり、技術チームも含めて50人から60人ほどのスタッフが1回のドラマに関わっています」

 そして、撮影チームにとっては、シナリオが事前にできあがることが少ない点が悩みとなっていた。

「ミニシリーズ(全16話ほどの連続ドラマ)の場合、脚本が放送日の1週間ほど前にできあがることが多く、本当に短い時間で撮影しなければなりません。この問題は簡単に解決できることではないのです。仮に事前にすべてのシナリオを書いておいてもPDが撮影するときに修正したり、インターネットでファンの強い意見を受けて内容を変更したり……。

 脚本家が最初に立てた計画の通り進めていけば良いのですが、制作陣や視聴者たちの言うことによって修正したり遅れたりすることが多くて、予定どおりに進みません。それによって、労働時間の多さが課題になります。通常の規定勤務時間は週に40時間ですが、120時間以上働くこともよくありました」

 こうした綱渡り的な制作状況の中で傑作が次々に作られていったのである。切羽詰まったときの韓国の人々が見せるエネルギーは凄まじい。

「ミニシリーズは60分ものを週2回放送していますが、実際には5日で2本を制作することもザラでした。作業量は週に100時間以上。ミニシリーズは全体で16回放送が基本ですが、事前準備を含めて12週間くらい休日なしで働くことになります」

 その中でも、ユン・ソクホ監督の場合は、平凡に撮るより美しい映像に徹底的にこだわったという。

「彼が演出した『秋の童話』や『冬のソナタ』の場合、出演者が少ないのですが、そこに風景が『もう1人の出演者』として重要な役割を担っています。それゆえ十分訴求力のあるドラマを制作できたのではないかと思います。また、人の目で眺めているような映像を撮ったのも効果的でした」

『冬のソナタ』のロケ地であった龍平スキー場には、同作の大型写真が掲げられていた