日本で韓国ドラマに興味がなかった人たちを劇的に引き込んだ傑作が『愛の不時着』(2019~2020年)だ。ちょうど2020年のコロナ禍における巣ごもりの時期だった。Netflixをはじめとして配信サービスが盛んになったときに『愛の不時着』が大ヒットして、さらに『梨泰院クラス』(2020年)が続いた。この2本は韓国ドラマを世界に大いに広めた。(以下、一部ネタバレを含みます)

■配信ブームの象徴となった『愛の不時着』と『梨泰院クラス』

「この人は韓国ドラマにまったく縁がないだろうなあ」

 そう思わせる男性から急に連絡が来て、「韓国ドラマを初めて見たよ。『愛の不時着』……メチャ面白かった」と言われた。たまたま見たバラエティ番組では、芸人たちが『梨泰院クラス』の話題で異様に盛り上がっていた。

 2020年の鬱屈した日々の中で、日本で韓国ドラマに関する「何か」が変わり始めていた。

 確実だったのは、韓国ドラマを見る層が拡大を続けていた、という現象だ。理由は「コロナ禍で外出できない中で、韓国ドラマがサブスクの配信サービスの有力コンテンツになったこと」。特に「『愛の不時着』と『梨泰院クラス』が韓国ドラマのビギナーの心を射止めたこと」。その二つに尽きる。

 それは、確かに偶然の産物だった。しかし、新しい波が起こるときは、かならず予兆があり、『愛の不時着』と『梨泰院クラス』という傑作はまさに「生まれるべくして生まれた」と言える。

 実際、『愛の不時着』が朝鮮半島の南北対立構造を逆に生かした物語であったことが、たまたま韓国ドラマにめぐりあった日本のエンタメ好きに格好の好奇心をもたらした。しかも、ヒョンビンソン・イェジンという「理想的な主役カップル」の存在感が生活習慣の違いや文化的な土壌を乗り越えていった。さらに、卓越した脚本と創造的な演出がプラスされたドラマは、どこでも通用する「普遍性」を持っていた。

 ソン・イェジンが演じた財閥の令嬢ユン・セリは、パラグライダーの事故で北朝鮮に不時着してしまう……この設定から意表を突かれた。彼女はヒョンビンが扮した北朝鮮将校リ・ジョンヒョクと出会い、政治体制の違いを超越してお互いの生き方を重ね合わせた。

 ユン・セリは韓国に戻ることができたが、北朝鮮の刺客が彼女を狙っていることがわかり、リ・ジョンヒョクも秘密のトンネルを通って韓国に渡る。軍服を脱ぎ捨てて素敵なファッションでソウルの繁華街を歩く彼はあまりにも颯爽としていた。さらに、愛しあう2人はヨーロッパへとステージを移していく。ここで『愛の不時着』から離れられない視聴者が続出したのも必然だったかもしれない。