最近、韓国ドラマを見ていると、異様な存在感を放つ俳優によく出くわす。脇役ながら、一度見たら忘れられない独特の空気をまとった役者、ペク・ヒョンジンだ。8月1日から韓国MBCで放送がスタートしたイ・ボヨンイ・ミンギカン・ギヨン出演の新ドラマ『メリー・キルズ・ピープル(原題)』(日本での放送、配信は未定)でも、薬物流通組織のボス役として登場している。

 ペク・ヒョンジンといえば、映画『サムジンカンパニー1995』での常軌を逸した常務オ・テヨン役や、ドラマ『復讐代行人~模範タクシー~』での非道極まりないウェブハード会社会長のパク・ヤンジン役など、強烈なキャラクターを演じることが多い。俳優名を聞いてピンとこなくても、役名を聞いたら「ああ、あの……」と思い出す人もいるのではないだろうか。そう、ネジが外れたような役をリアルに演じるあの役者だ。

パク・チャヌク監督をも魅了するカリスマミュージシャン、ペク・ヒョジン

 ペク・ヒョンジンは、演技一本で来た俳優ではない。1997年に、既存の概念にとらわれない音響表現を追求するバンド「オオブプロジェクト」のボーカルとしてデビューしたミュージシャンだ。

 私が韓国に渡った2002年当時、彼はソウルのアンダーグラウンド文化を牽引するカリスマ的存在だった。気だるそうなのにどこか挑発的な歌声、予測不能なパフォーマンスなどで、多くのファンを魅了していた。

 ペク・ヒョジンのファンは一般人にとどまらず、映画『オールド・ボーイ』でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞したパク・チャヌク監督や、『ベルリンファイル』『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』『密輸 1970』など、数々のヒット作を手がけたリュ・スンワン監督も、昔から彼のファンであることを公言している。

 その唯一無二の音楽性に魅了された監督たちからのオファーも多く、『復讐者に憐れみを』『クライング・フィスト』など、数々の映画OSTにも参加してきた。

 ミュージシャンとして活躍する一方、ペク・ヒョンジンは1990年代半ばから、芸術家としてのキャリアもスタートさせる。絵画やインスタレーション作品を精力的に制作し、海外で発表したり、韓国の美術館やギャラリーで個展を開いたりと、華々しい活躍を見せてきた。

 こうして実績を重ね、今では韓国を代表する現代美術アーティストの一人として認識されている。韓国のアングラシーンを築いたミュージシャンでありながら、美術家としても高い評価を受けるとは。一体、どれだけの才能を持ち合わせているのだろう。その多才ぶりに驚いていたら、なんと今度は俳優としても活躍しはじめた。