1982年に韓国で大ヒットした官能映画『愛麻夫人(エマブイン)』の製作に関わった人々を描いたNetflixドラマ『エマ』。映画会社社長(チン・ソンギュ)と衝突し、トップ女優のチョン・ヒラン(イ・ハニ)は主演の座を失ってしまう。(以下、一部ネタバレを含みます)

■Netflix『エマ』にも登場した実在の大統領を演じる恍惚と不安

 ヒランの代わりに抜擢されたバックダンサー上がりの新人シン・ジュエ(パン・ヒョリン)は、第4話でVIPが集まる秘密パーティに参加。そこで、当時の大統領と遭遇することになる。

 植民地時代や朝鮮戦争、軍事独裁、民主化運動、IMF事態などを経験した我が国では、20年ほど前までドラマや映画に近現代史上の人物が実名で登場することが珍しくなかった。その意味で要人に扮することは俳優にとって大きなプレッシャーであり、同時に大変な栄誉であるともいえる。

 なかでもパク・チョンヒ(朴正煕)大統領とともに軍事独裁を象徴するチョン・ドゥファン(全斗煥)大統領は、光州民主化運動過剰鎮圧の主導者ということもあって、突き抜けた悪役であり、大役だ。

ファン・ジョンミンユ・ジェミョンソ・ヒョヌチャン・グァン、イ・ドックァ……チョン・ドゥファンを演じた俳優たち

 これまで、チョン・ドゥファンを演じた俳優と言えば、映画なら『大統領暗殺裁判 16日間の真実』のユ・ジェミョン、映画『ソウルの春』のファン・ジョンミン、『KCIA 南山の部長たち』のソ・ヒョヌ、映画『26年』のチャン・グァン。ドラマなら『第5共和国』のイ・ドックァ、『第4共和国』のパク・ヨンシクが思い浮かぶ。

 パク・ヨンシクは薄毛で顔立ちがチョン・ドゥファンに酷似していたため、現実の第五共和国時代(チョン・ドゥファン政権)の数年間、俳優活動を禁じられるという苦い経験をしている。

『エマ』の主舞台はかつて映画関連企業が集まっていたソウル忠武路。昨秋、大韓劇場がなくなり、映画の街の痕跡はほとんどない。写真は2012年、『26年』上映中の大韓劇場