Netflixで大ヒット中の『暴君のシェフ』。主人公のイム・ユナ(少女時代)が扮するヨン・ジヨンは、パリで活躍する天才シェフだったが、朝鮮王朝時代にタイムスリップしてしまい、イ・チェミンが扮する国王イ・ホンに料理の腕を絶賛された。
国王の強い推しで水刺間(スラッカン/王室専用の調理場)の最高調理人になったジヨンは、明国の使節に帯同してきた料理人たちと勝負することになった。そんな彼女が秘密兵器として発見したのが唐辛子だった。(以下、一部ネタバレを含みます)
■Netflix『暴君のシェフ』に登場する唐辛子、史実ではいつ朝鮮半島で使われるようになったのか
ジヨンが見つけた唐辛子は、王室専用の温室で毒草として育てられていた。それはあくまでも架空の話であり、史実で朝鮮半島に唐辛子が入ってくるのはかなり遅かった。
もともと唐辛子はメキシコが原産地であり、世界に広がるきっかけを作ったのがコロンブスだった。彼が15世紀末に新大陸を発見し、そこで見つけたタバコと唐辛子がヨーロッパに持ち込まれるようになった。
長い年月をかけて唐辛子が日本や朝鮮半島に渡ってきたのは16世紀末だ。一説には、豊臣秀吉による朝鮮出兵の際に唐辛子が日本から朝鮮半島に伝わったという話もあるのだが……。
唐辛子が入ってくる前は、朝鮮半島で香辛料として使われたのは胡椒だった。肉の臭みを消して腐敗を防ぐ香辛料はとても重宝されたのだが、値段が高すぎだ。しかも、熱帯性の胡椒は栽培が難しかったので、高価な胡椒を使える人は限られてしまった。
そんな時期に香辛料として唐辛子が持ち込まれて、朝鮮半島全土で普及するようになった。同じ唐辛子でも、日本と朝鮮半島では大きさが違った。日本では「鷹の爪」と呼ばれるように小さくて辛くなるのだが、朝鮮半島ではわりと大きな唐辛子が育った。カルシウム分の多い朝鮮半島の土壌に唐辛子がよく合ったのである。
唐辛子の登場で、キムチそのものも変わった。古くから朝鮮半島でキムチは「沈菜(チムチェ)」と言われた。野菜を水に浸す、という意味が込められていた。そうしたキムチは、単純に野菜を塩漬けしたものだった。それは、唐辛子が登場する以前の話だ。
たとえば、『宮廷女官チャングムの誓い』では豪華な宮廷料理がたくさん出てきたが、赤いキムチはまったく出てこない。このドラマの舞台は16世紀前半であり、まだ朝鮮半島に唐辛子が入ってくる前だったからだ。