Netflix配信人気作『暴君のシェフ』において、イ・ホン(イ・チェミン)は破天荒な国王として描かれている。彼の歴史上のモデルとなった燕山君(ヨンサングン)は、朝鮮王朝の正式な歴史書『朝鮮王朝実録』では「史上最悪の暴君」として辛辣に書かれている。そこまで悪評を意図的に受けたのには、二つの理由があった。

■『暴君のシェフ』国王イ・ホンのモデル燕山君が『朝鮮王朝実録』で悪評な理由は?

 理由の一つは、燕山君に対して恨みを持っていた人がとても多かったことだ。そういう人たちの評価を基に『朝鮮王朝実録』が記述されているので、燕山君が悪く書かれてしまうのも仕方がない。もちろん、大半は事実だ。

 もう一つは政治的な理由である。燕山君を廃位に追い込んだクーデターの首謀者たちが『朝鮮王朝実録』の執筆者たちを選んでいる。クーデターを正当化するために、燕山君を極端なワルに仕立てる必要があった。それゆえ、『朝鮮王朝実録』では燕山君が典型的な暴君として書かれているのだ。

 そんな燕山君が500年以上も経過した現代において、まさか人気ドラマの主人公として登場することになるとは……想像さえできないことだった。

 燕山君の生い立ちを見ると、複雑な一面もある。幼き日に生母である尹(ユン)氏を失い、孤独の中で育ったことだ。改めて経歴を見てみよう。

 燕山君は1476年に生まれている。9代王・成宗(ソンジョン)の長男なので、大いに期待を込められた王子であった。しかし3歳の時に尹氏が廃妃になってしまった。それゆえ母親の愛情を知らずに育っていった。

 尹氏を廃妃に追い込んだ仁粋(インス)大妃(成宗の母)は、燕山君に対して極端に辛く当たったと伝えられている。確かに、自分の手で廃妃にした女性の息子が憎かったかもしれない。

 継母となった貞顕(チョンヒョン)王后も燕山君に愛情を示すことができなかった。このように、王宮の中で燕山君は冷たくされていた。幼心にもつらかったことだろう。

 父親の成宗は、燕山君を擁護していた。たとえ母親が廃妃になったとしても、長男だけは守りたいという気持ちが強かった。そこで、燕山君を世子にして次代の国王への道を築いた。