現代の天才シェフが朝鮮王朝時代にタイムスリップして暴君と料理物語を展開するというファンタジー・コメディ&重厚な歴史劇だったNetflix暴君のシェフ』。一つのカテゴリーで括れないほどの多様性を持ったドラマだった。その際立つ特徴について概観してみよう。(以下、一部ネタバレを含みます)

■超話題作となったNetflix『暴君のシェフ』面白さはどこにあるのか

 超話題作となった『暴君のシェフ』は、韓国ドラマによくある「タイムスリップ物」なのだが、歴史場面を重厚すぎるくらい丁寧に描いていた。

 イ・チェミンが演じた国王のイ・ホンは10代王・燕山君(ヨンサングン)がモデルになっていたが、燕山君は27人いる朝鮮王朝の国王の中で「最悪の暴君」であり、一番評判が悪い。今まで歴史的に散々罵倒されてきたこの国王を主人公に据えたという点が画期的だ。

 しかも、イ・チェミンのように、どこから見てもイケメンすぎる25歳の新鋭が国王を演じるという点に新鮮さがあった。それが、ドラマが大ヒットする起点になったかもしれない。

 さらに、フランスの料理大会で優勝したばかりの天才シェフのヨン・ジヨン(イム・ユナ少女時代)がタイムスリップして朝鮮王朝時代に入り込んで暴君に出会う、という序盤の展開に強烈なワクワク感があり、視聴者の関心を一気に引き込んだ。

 そして、次々に繰り出されてくる垂涎料理の数々……そのビジュアルの見せ方が卓越していたので、「中だるみ」もなくドラマがスリリングに進んでいった。

 なんといっても高く評価すべきは、歴史的な名場面の描き方だ。特に、史実で実在した人物を『暴君のシェフ』はうまくキャラクターに生かしていた。

 インジュ大王大妃(ソ・イスク)は燕山君の祖母であった仁粋(インス)大妃、チャヒョン大妃(シン・ウンジョン)は燕山君の継母の慈順(チャスン)大妃、チンミョン大君(キム・ガンユン)は燕山君の異母弟の晋城(チンソン)大君……このように『暴君のシェフ』の登場人物が歴史的な人物とうまくリンクして、歴史を扱う物語に厚みを加えていた。

 また、韓国料理史と呼べるほどに「時代に応じて料理がどのように変遷していったか」という視点も織り込まれていて、ユニークなテイストも加わっていた。

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