それから2ヵ月後、僕は再び仁川国際空港にいた。セルフチェックインキオスクの機械の前に立っていた。スマートパスを再登録しようと思ったのだ。
指示通り、パスポートを読み込ませた。すると、すでに登録されているという表示が出てしまった。登録を解除して、再登録をしようとしたが、そのボタンがない。しっかり調べれば、その方法がわかるのかもしれないが、あまり時間がなかった。
「今回はうまくいくかもしれない」
搭乗券をスキャンし、スマートパスレーンに並んだ。そのレーンには誰もいなかった。
「なんとか認証してほしい」
祈るような思いで機械の前に立ち、モニターを見つめた。
だめだった。
そこにいた空港スタッフから、パスポートを見せるようにいわれた。それを見たスタッフはこういった。
「あなたは70歳を超えているから、優先レーンを利用できます。入口はこのレーンの横。通常レーンの反対側です。そこに行ってください」
僕の容姿を見て、70歳以上の老人では、と勘を働させたようだった。
指示に従って優先レーンに向かった。そこには顔認証機械はなく、スタッフがパスポートを確認し、顔を目視しただけで通してくれた。優先レーンは通常のセキュリティーチェックの隅につくられていた。待つ人がひとりもいない。いたってスムーズにチェックが終わってしまった。仮にスマートパスがうまくいったとしても、ここまでは早くない。
得をしたような気にもなったが、一抹の寂しさもある。僕は老人なのだ。仁川国際空港は老人に優しい空港ということなのだろうが。
僕のスマートパス登録はそのままになっている。

