年末年始に、韓国ドラマを一気見しようと計画している人も多いだろう。2025年の韓国ドラマで人気を集めた両横綱は『おつかれさま』『暴君のシェフ』だと思うが、ほかにもクオリティの高い佳作がある。なかでも昨今の韓国ドラマの傾向もわかる、隠れた名作を紹介!(記事全3回の2回目/以下、一部ネタバレを含みます)

■1970年代から1990年代を背景にしたレトロドラマの良作が目立った今年、Netflixエマ』も必見!

 2025年の韓国ドラマは、1970年代から1990年代を背景にしたドラマで良作が目立った。『おつかれさま』も一部、同時代を舞台にしているが、そのほかにも『パイン ならず者たち』『テプン商事』『100番の思い出』なども面白かった。

 現在の韓国の繁栄を築いた情熱が、この時代にはあふれている。配信時代に入って資金が潤沢になったことや、CGやAIの技術が発展したことが、レトロワールドの再現を容易にしたのだろうが、小道具や背景などのクオリティにも目を見張る。

 だが、韓国での人気に比べると、こうしたレトロドラマについて日本の反応は薄いようだ。韓国では世紀の傑作とされる『おつかれさま』でさえ、日本では好き嫌いがかなりある。おそらく、日本人にとっては韓国の1970年代から1990年代は遠い世界のため、ノスタルジーや共感を感じにくいことが大きいのではないかと思っている。

 今回紹介する『エマ』も、1980年代を背景にしている。加えて、舞台となるのが官能映画業界ということもあり、視聴に二の足を踏んだ人もいたのかもしれない。この作品も韓国ではわりと評判が良く、配信先のNetflixでもかなり長期間ランキングしていたが、日本では大きく注目されることがなかった。だが、観始めると、さまざまな懸念が吹っ飛ぶはず。最後には胸をグっと熱くさせられる。

 ドラマの舞台は1981年。全斗煥大統領の時代だ。1979年に朴正熙大統領が暗殺されたので、ちょうど時代の切り替わりの時期である。新しい時代の幕開けを機に、「もう脱がない」と公言した官能映画のトップ女優ヒラン(イ・ハニ)。そんな彼女に代わり、オーディションを勝ち取った新人女優ジュエ(パン・ヒョリン)が次回作「愛馬夫人」の主演となるが……。

 ドラマのモチーフになったのは、韓国で1982年に大ヒットした官能映画『愛麻夫人』。その創作過程をフィクションを交えながら描いていく。官能映画を扱っているというと、日本ドラマ『全裸監督』を思い出す人もいるかもしれないが、本作も見始めてみるとブラックユーモアたっぷりで痛快だ。現在に繋がる社会問題まで盛り込んでくるあたりは、韓国ドラマならではといえるだろう。

 主役のヒランを演じるのは、『ワン・ザ・ウーマン』のイ・ハニ。色鮮やかなファッションを着こなして凛と立つ姿は、まさに往年のスターの雰囲気満々だ。第二のヒランを目指す新人女優ジュエは、本人もオーディションで『エマ』の役を射止めたパン・ヒョリンが演じる。

 時は、軍事独裁政権時代。男社会を絵に書いたような官能映画業界の裏にも、その影が忍び寄っている。そんななかで、はじめは対立していたスター女優と新人女優が手を取り合い、捨て身の覚悟で業界の悪習に立ち向かっていく。劇中には、2人がソウルの大都会を馬に乗って駆け抜ける突拍子もないシーンもあるが、その突拍子のなさが逆に切実さを感じさせる。

Netflixシリーズ『エマ』独占配信中