近年、韓流に親しむようになった日本人にとって、印象的なドラマや映画というと、『涙の女王』『二十五、二十一』『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』『建築学概論』などのラブロマンスだろうか。『愛の不時着』が抜けていると言う人もいるかもしれない。たしかに、『愛の不時着』はラブロマンスなのだが、じつは「南北分断」ものでもある。
韓国では南北分断を題材にした多くのドラマや映画が作られてきているが、今回はNetflixで配信が始まった韓国映画『HUMINT/ヒューミント』の見どころを紹介しよう。監督は『ベルリンファイル』『モガディシュ 脱出までの14日間』に続いて3作目の南北分断ものを手がけたリュ・スンワンだ。(一部、ネタバレを含みます)
■『HUMINT/ヒューミント』緊張感と映像美は、南北分断がテーマの作品の王道
『HUMINT/ヒューミント』はロシアのウラジオストックを舞台に、韓国と北朝鮮の工作員が暗躍するスパイ映画だ。韓国側の工作員に『ムービング』のチョ・インソン。 北朝鮮側の工作員に『地獄が呼んでいる』のパク・ジョンミンと『おつかれさま』『夫婦の世界』のパク・ヘジュン。南北の狭間で苦悩するヒロインに『魅惑の人』のシン・セギョンが扮している。
『モガディシュ 脱出までの14日間』『密輸 1970』に続いてリュ・スンワン作品に登場したチョ・インソンは高身長を生かしたアクション演技で本領を発揮。緊張が緩んだときに見せる表情に色気を感じさせている。
北側工作員に扮したパク・ジョンミンはかつての恋人(シン・セギョン)への拷問も厭わないハードコアな役どころ。近作『ニュートピア』でのコミカルな軍人と同一人物とは思えない演技の幅を見せつけた。
パク・ヘジュンは『おつかれさま』の実直な父親のイメージが強いが、じつは『エマ』の芸能記者役で見せたような狡猾な人物も上手い。『HUMINT/ヒューミント』では彼のダークな演技を堪能できる。
シン・セギョンが扮したウラジオストックの北朝鮮レストランのマネージャー兼歌手は、病気の母親の治療費を稼ぐために南北の狭間で苦悩する難しい役どころだ。ソン・ガンホ主演映画『青い塩』の初々しいヒロイン役(当時21歳)を覚えている人は、その変貌ぶりに驚くだろう。
1990年代末以降の南北分断ものは、北側の兵士や工作員の人間味にスポットを当てたり、呉越同舟を描いたり、コミカルな要素を加えたりと、多様化を極めていたが、『HUMINT/ヒューミント』の緊張感と薄暗く重苦しい映像は南北分断ものの王道といえる仕上がりだ。
設定上の舞台はウラジオストックだが、実際の撮影はバルト三国のラトビア共和国の首都リガで行われている。往年の名作『第三の男』を思い出させる光と影を強調した夜の街の映像も見ものである。