ナムグン・ミンとアン・ウンジンが主演の時代劇『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』は、単なるロマンティックな歴史劇の枠には収まらない。描かれている歴史の重厚さに感服させられる。特に、物語の前半部分は、朝鮮王朝と清国との凄惨な戦乱が題材になっており、息詰まる展開が続く。(以下、一部ネタバレを含みます)
■主役の演技に圧倒される『恋人~あの日聞いた花の咲く音~』、ナムグン・ミンの細やかな視線や所作の一つ一つが歴史大作の屋台骨を支えていた
戦乱の前まで、両班(ヤンバン)の若者たちは太平の世を謳歌していた。その日常はとても優雅なものだった。しかし、ひとたび戦端が開かれると、平穏な日々は無惨にも崩れ去る。突如として「死」が身近に迫る極限状態へと放り込まれたのだ。
清国が誇る強大な軍勢に朝鮮王朝側は歯が立たなかった。それでも男たちは、愛する家族や弱い者たちを守るため、命を賭して抗戦を続ける。凍てつく冬の寒さの中、戦局は泥沼化していった。人間の誇りすらも奪い取られるような過酷で悲惨な戦いが続いた。
絶望的な状況下で、ひときわ異彩を放つのがナムグン・ミン扮するイ・ジャンヒョンである。普段は優美に扇子を揺らし、浮世の世界にひたっていた。しかし、危機が訪れると一変した。卓越した頭脳と強靭な肉体、そして冷徹な計算を武器に、苦しい戦況を幾度も覆していく。
決して周囲に流されず孤高のスタンスを貫きながら、彼は難局を打開していった。その姿は、この上なく痛快だった。
ナムグン・ミンは、本心が見えないような複雑な人物像を圧倒的な説得力で演じ切った。彼の細やかな視線や所作の一つ一つが、歴史大作の屋台骨をしっかりと支えていた。
物語のもう一人の主役が、アン・ウンジン演じるユ・ギルチェである。彼女は当初、わがままで世間知らずな令嬢として登場する。しかし、生き延びるための過酷なサバイバルを経て、彼女の精神は劇的な変貌を遂げる。恋に焦がれる少女から、泥水をすすってでも生き抜こうとする逞しい女性へと覚醒していくのだ。
アン・ウンジンは、振れ幅の大きいキャラクターを見事に体現してみせた。自己中心的なお嬢様から人生の残酷さと深さを知る成熟した女性への鮮やかなグラデーション。彼女の表現力は、過酷なシーンが連続するにつれて、ますます底知れぬ深みを見せていった。