■“哀れな強盗犯”が爆死する瞬間の映像が流出!
こうして記事冒頭のように、ウェルズは「謎の人物たち」の指示どおり、銀行に押し入り最初の任務を完了した。ただ、誤算だったのは直後に警官隊に囲まれてしまったことだ。
「首の爆弾が爆発して殺されてしまう!」
と悲鳴を挙げるウェルズから距離をおいて囲む警官隊、さらに、物珍しそうに眺める一般市民の群れ。万一に備え署からは爆発物処理班が向かっていたが、事態は膠着していた。その後、事件を聞きつけたテレビ局の取材班が到着、現場の状況をブレイキングニュースとして生中継を始めたのだ。こうして、奇妙な銀行強盗犯を巡って現場は騒然となってくる。
そして、遂に最悪の瞬間が訪れた──。
爆発物処理班が到着するわずか3分前、テレビカメラが哀れな銀行強盗の姿を生中継で放送しているさなかに爆弾が起爆し、ウェルズは胸部に致命傷を負い死亡してしまった。ただ、不幸中の幸いというか、おそらくディレイ放送(注2)だったのだろう、爆死する瞬間の映像がテレビ画面に映し出されることはなかった。とはいえ、この衝撃的な瞬間の映像は後に何者かにより流出。ネット上に拡散してしまった。
注2/生放送での事故を避けるため、「生中継」といいつつ、いったん映像を録画し、それをチェックしたうえで放送すること
後に「ピザ配達人爆死事件」として知られるこの事件が衝撃的な“一時的な終幕”を迎えたのち、捜査はFBI(米・連邦捜査局)を中心に行なわれ、4年にわたる捜査の末、事件の全貌が明らかになる。ただその後も事件にまつわる数々の謎は人々の興味を引き続け、2018年には、この事件を扱ったドキュメンタリー作品『Evil Genius(悪の天才)』がNETFLIXで公開されるなど、いまだに注目を集めている。
その最大の理由は上に挙げた複雑な人間関係と計画のおぞましさ、そして、FBIも含めた登場人物それぞれの証言が錯綜している事だろう。ウェルズの死は終幕どころか、一幕目にしか過ぎなかったのだ。そこで、ここからは、事件に関わる人物や組織の証言と、彼らの横顔を整理していこう。
■FBIと遺族の食い違う証言と一人目の証言者
まず、FBIは長期にわたる捜査の末、
「今回の事件はブライアン・ウェルズを含めた複数の人間が共謀して行なわれたもの。ウェルズは事件の渦中で共犯者の裏切りに遭い、殺害された」
と結論付けた。しかし、前述のように、ウェルズの遺族は事件の際に彼が叫んでいたとおり、あくまで彼は巻き込まれた被害者だと主張した。
そして、FBIの報告にある「複数の共犯者」の一人で、事件現場のひとつ、テレビ塔の近くで便利屋を営むウィリアム・ビル・ロススタイン(William Ansell Rothstein)という男が、事件から約1カ月後の9月20日、
「うちのガレージの冷凍庫に、ジェームズ・ローデンという男の死体がある」
と、事件に関わる”もうひとつの死”について、地元警察に通報してきた。そして、この証言をきっかけに、事件の背後に潜んでいた、複雑怪奇な人間関係とおぞましい計画が次々と明らかになるのだ。
ロススタインはかつて10年ほど同棲していたマージョリー・ディール=アームストロング(Marjorie Diehl Armstrong)という女性が、現在の恋人だったジェームズ・ローデンをショットガンで射殺したと告発。またロススタインは、マージョリーから死体の隠匿と犯行現場の清掃を2000ドルで依頼されたと告白し、自殺をほのめかしながら、ローデンの死に自分は無関係だと主張した。さらに彼はマージョリーが支配的な危険人物で、怖くなったため、警察に通報したと述べていた。
この告発により、マージョリーは2005年1月、第三級殺人(明確な殺意なき殺人≒日本でいう過失致死)と死体損壊の罪で懲役7~20年の判決を受ける。だが、その後彼女は州警察やFBIに対し、ピザ配達人爆死事件に関する驚くべき証言を語り始めるのだ──。