第2の証言者 マージョリー・ディール=アームストロング

マージョリー・ディール=アームストロング

ローデン殺害や銀行強盗など複数の罪で起訴されたマージョリー・ディール=アームストロング

画像:地元紙ERIE TIMES-NEWS2017年4月4日記事「Erie Times-News photos of Marjorie Diehl-Armstrong」より

 2005年4月、マージョリーは爆死事件について情報を明かすことと引き換えに、重罪犯ばかり収監する刑務所から軽犯罪者用の刑務所への移送を要求し、FBIに司法取引を持ちかけた。そして彼女は、

 

「首謀者はロススタインで、爆死したウェルズも計画に関与していた」

 

 と主張。さらに爆弾に使われたキッチンタイマーは自分が提供したものだと認めた。

 彼女を警察に”売った”ロススタインこそが真犯人だと逆襲したわけだが、確かにロススタインには、70年代後半にある殺人事件に関わっていたというきな臭い過去があった。ただ、実はこの時点でロススタインは悪性リンパ腫ですでに死亡しており、爆死したウェルズともども”死人に口なし”だ。

 

 マージョリーは高校時代は優等生で卒業生総代を務め、地元のカトリック系大学で修士号を取るほどの才女だった。ただ、その後の彼女の人生にはきな臭い影がつきまとう。1984年、35歳の彼女は交際相手の男性を銃で撃ち殺したが、正当防衛の主張と20代から精神的な失調があったことが認められて無罪となっていた。

 

 ただし、この事件の記録によれば、眠っていた男性に6発の弾丸を撃ち込んだとあり明確な殺意が伺える。またFOX NEWSの報道によればだが、これ以外にも2人、不審死を遂げた恋人がいるという。つまり、4人の男性(ウェルズを入れれば5人)が、彼女の周りで死んでいるのだ。

 

 そして、彼女のFBIへ持ち掛けた司法取引は成立することはなかった。なぜなら、同じ2005年の暮れ、マージョリーの事件への関与を告発する”予想外の証言者”が現れたのだ──。

 

第3の証言者 ケネス・バーンズ

ケネス・バーンズ

2007年7月、エリーのFBI事務所へ護送されるバーンズ

画像:バーンズの死を伝える地元紙ERIE TIMES-NEWS2020年7月5日記事「FOIA details death of Erie pizza bomber plotter Barnes」より

 その証言者とは、マージョリーの釣り仲間で、麻薬絡みの犯罪で収監されていた元テレビ修理業者のケネス・バーンズ(Kenneth Barnes)だ。ブライアン爆死事件の詳細を義理の兄弟に話した後に警察に密告され、逮捕された。

 

 収監後、バーンズは捜査当局に対し、「減刑と引き換えに知っていることを全て話す」と持ちかけ、

 

「爆死事件の首謀者はマージョリーで、そもそもは財産相続目当てで実の父の殺害を計画し、その報酬を自分に支払う資金を得るために銀行強盗を計画した」

 

 と証言。なお、バーンズの証言によればマージョリーの父殺害の報酬は25万ドルで、確かに、ブライアンが銀行で最初に要求した額と同じだ。捜査当局や検察は、このバーンズの証言を重要視し、その”筋立て”を元に捜査を進めた。

 

 結果、買い物依存症などで金に困っていたマージョリー、バーンズ、ロススタインの3人が共謀し(注3)、犯罪計画を立案。後に証言したバーンズの知人で売春婦をしていた女性からカネとドラッグと引き換えに客でコワモテだったウェルズを紹介させ、「銀行強盗役」に仕立てと捜査当局は断定。

注3/実はもう一人、ロススタインの家に同居していた男も共謀を疑われたが司法取引で免罪されている。

 

 さらに、ウェルズ自身は事件直前まで自分の命を奪うことになる首輪爆弾を「銀行の受付係を怖がらせるためのダミーの爆弾」と思い込まされていたという。なお、この爆弾は書籍やネットの知識を元にロススタインが製作したとされている。

 

■そして、誰もいなくなり、謎だけが残った

 かくして、2008年9月3日、ケネス・バーンズは銀行強盗の共謀と幇助、教唆の罪で有罪になり、45年の懲役刑を宣告された。また、すでにローデン殺害の罪で収監されていたマージョリーも2011年2月28日、武装銀行強盗およびその共謀、さらに犯罪における破壊機器使用などの罪で終身刑の判決が下された。

 

 その後、マージョリーは刑務所の中から無罪や裁判の不当を訴え続けたが、2017年4月、乳がんのため68歳で死亡した。2012年からたびたび収監中のマージョリーと面会や手紙のやり取りをした、ペンシルバニア州にあるレバノン・バレー大学のキャサリン・M・ホワイトリー博士(社会学/犯罪学)によれば、

 

「彼女は自分が刑務所の中で死ぬとは思っていなかった。いつか無罪で釈放されると強く信じていた」

 

 と、最後まで自分の潔白を主張していたという。また、メディアの中で自分が「モンスター」のように描かれることに強い憤りを見せていたともホワイトリー博士は語っている(注4)

注4/ABC(オーストラリア放送協会)「Netflix's Evil Genius: Marjorie Diehl Armstrong is more complicated than the documentary shows(NETFLIX『悪の天才』:マージョリー・ディール=アームストロングはドキュメンタリーで描かれているよりもっと複雑だ)」より

 

 また、事件の”首謀者”の一人であるバーンズも糖尿病の持病があり、2019年6月20日に刑務所内で死亡(年齢は64〜65歳だったとされる)。こうして、事件関係者すべてがこの世を去り、いくつもの不可解な謎だけが残ることとなった。

 

 そもそも、銀行強盗でカネを得るのが真の目的だったのなら、マージョリーはなぜこんなにも複雑な手順を用意したのだろうか? また、マージョリーを告発した第1の証言者・ロススタインは本当にこの爆死事件に関わっていたのか? 死亡したウェルズは共犯者なのか、単なる被害者だったのか? 20年が経過した現在も、この「ピザ配達人爆死事件」は世界中の興味を集めているが、今後、真相が判明することはないだろう。