■昆虫は電気で飛ぶ?

マルハナバチ
グレベニコフはハチの体(外殻)にマイナスの電荷が溜まり、反発で飛ぶと考えた。 画像:Marco Almbauer, PD, via Wikimedia Commons

 グレベニコフは昆虫の羽ばたきが静電気を発生させ、外殻にマイナスの電荷が集まると主張した。甲虫の固い外側の羽根は断面がハニカム構造になっているのだ。そして、地上はマイナスの電荷を帯びているので、マイナスとマイナスの反発力で昆虫は飛ぶという。

 

 さらに、グレベニコフは昆虫の外殻を大量に集めて箱に詰め、その上に乗って空を飛んだ(!)という。電気を集めるための羽ばたきはどうしたのか、気になる。飛んでる姿をUFOと間違われ、翌日の新聞に載ったのだそうだ。世間はもう大騒ぎさ。

 

グレベニコフの飛行装置。これで300メートルの高さまで飛んだという……ネタとしてはナシ寄りのアリ 

画像引用:「Viktor GREBENNIKOV Cavity Structural Effect & Insect Antigravity」

 さて、航空力学の専門家だっていつまでもわからないでは済ませない。昆虫をより精緻(せいち)に観察したところ、羽ばたきの際に羽根が回転していることを発見した。つまり、羽ばたきながらひねりを入れているのだ。これにより、単なる羽ばたき運動よりも揚力が大きくなる。

 

さらに、私たち人間は普段の生活では気づかないが、空気にも粘性(粘っこさ)があり、特に小さな物体にはこの空気の粘性が大きく影響する。この「ひねりと粘性」という2つの要素を加えてシミュレーションすると、なんと、マルハナバチは簡単に浮かび上がったのだ!

 

「世の中に不思議なことなど何もないのだよ」

 

と、かの京極堂も言っているように、あっさり解決してしまった「マルハナバチのパラドックス」。とはいえ、音や電気で飛ぶ昆虫の話は、話としては面白いので、雑談のネタにでも。