怪談売買所で怪談を100円で買ってみた

 

 今回、もうひとつの目的は宇津呂さんから怪談を100円で買うこと! せっかくなので尼崎で起こった怪談を教えてもらいました!

 

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深夜のタクシー
それは、ある深夜、タクシー運転手Aさんが遭遇した奇妙な体験だった──

 これは宇津呂さんがタクシー運転手のAさんから聞いた話である。

 

「タクシー運転手やっていて、怖い話ないの? と聞かれるんですが、全然ないんですわ。でも、一度だけ不思議なものを見たことがありましてね……」

 

 その日、Aさんは尼崎市内のとある国道沿いをタクシーで流していた。夜中なので、他に走っている車もなかった。道は空いていたが、Aさんは特に急ぐ理由もなかったため、制限速度を守って走っていたという。

 

「そしたら、後ろからものすごい勢いでスポーツカーが走ってきたんですよ。“ブワーッ!”と。で、追い越していったんです」

 

 危ないなぁ……そう、Aさんは一瞬、思ったが、スポーツカーはすぐに見えなくなってしまった。それからしばらく走り続けていると、とある横断歩道のところで先ほど追い越していったスポーツカーを見つけたという。

 

「それも、道路の真ん中、センターラインのほうに寄せて止まっているんですよ。おかしいなと思うじゃないですか。で、しばらく私も見ていたら、助手席から若い2人の男の子が車を降りてきたんです。それで、車のまわりを回ったり、車の下を覗き込んだりしてるんですよね」

 

「ひょっとして野良猫でも轢(ひ)いたんかな?」そう、Aさんは思った。もし、事故だったら何か手伝おうかなと、減速しながらスポーツカーのほうへと近づいていった。

 

「そしたらね……、その2人が覗き込んでる車の下から、モソモソ……と真っ黒な人影のようなモノが出てきたんです。何やあれ?と思って見ていると、その黒い影が立ち上がって道路の方にタッタッ……と、走っていったんです」

 

 だが、その黒い影のようなモノは2人の若者には見えなかったようで、相変わらず車の周りを覗いたり、首をかしげていたという。

 

「そこで気付いたんですけれどね、その横断歩道の横には救急のそこそこ大きい病院があったんですよ。だから、もしかしたらあの黒い影は、その病院で亡くなった人かなんかで、若者の車とぶつかったのかもしれませんね……」

(了)

 

■怪談って奥が深い…カワノ覚醒!?

 

「もしかして、その病院って〇〇病院ですか?」

 

 私がそう尋ねると、宇津呂さんは「確かそうだったと思います」と言った。これは地元の人間なので知っていることなのだが、その病院の前の通りは車の流れが激しく、しょっちゅう交通事故が起きているのだ。

 Aさんが見た黒い影がもし、本当に病院で亡くなった人の霊であれば、事故が多いことと何か関連があるのだろうか……。

 

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 今回、怪談を買わせていただいて、すぐに「それって◯◯病院では?」と事故が多い通りとの関連性をなんとなく結びつけてしまったカワノ。しかし、先ほども書いたように宇津呂さんの中では「霊が出るから事故が多い」と安直に結び付けないで話すのが、余計に気味悪さを引き立てて「さすがだな……」と思いました。

 

 今回のインタビューを通して、これまでの赤字だらけの原稿の「何がよくなかったのか」が分かった気がしたカワノ。怪談は奥が深い……。話の組み立て方も含めてとても勉強になりました!

 

阪急沿線怪談(竹書房怪談文庫)
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【プロフィール】
宇津呂 鹿太郎(うつろ しかたろう)

兵庫県尼崎市出身。怪談作家。NPO法人宇津呂怪談事務所所長。
幼少期より怪談の蒐集を始め、現在に至る。これまで集めた怪談は七百話を超える。怪談作家として自ら聞き集めた怪異体験談を書籍化する傍ら、各地で怪談ライブの主催、出演も行う。怪談を百円で買い取る店「怪談売買所」の企画は、その奇抜な内容から新聞やテレビ、ラジオ等で大きく取り上げられた。
著書に『怪談売買録 死季』(竹書房)、『兵庫の怖い話 ―ジェームス山に潜む老紳士―』(TOブックス)、『怪談売買所 ~あなたの怖い体験、百円で買い取ります~』(ライツ社)等、DVDに『怪奇蒐集者 宇津呂鹿太郎』(楽創舎)等がある。
また『怪談のシーハナ聞かせてよ。』(エンタメ~テレ)や『かまいたちの机上の空論城』(関西テレビ)、『北野誠のズバリ』(CBCラジオ)等、テレビ、ラジオ番組にも出演多数。現在はABCラジオ『にっぽん怪談紀行 ~柳田~』にレギュラー出演中。
また、YouTubeチャンネル「宇津呂怪談チャンネル」を配信している。
なお、怪談売買所やイベントの開催情報などはこちらから/NPO法人宇津呂怪談事務所