■ステージの合間にはファンとの交流も
今回のイベント「上野奇々怪々」の特徴は、こうしたステージもさることながら、客席最上段で同時に開催されているサイン+交流会。第一部終了後は、川奈さん、夜馬裕さんに加え壇上の4人も参加してファンとの交流を深めた。
フジロックやサマソニでステージを降りた演者が、自分のブースでサインしながらファンと交流なんて考えられないが、同じフェスでも「上野奇々怪々」はこうしたお客と演者の近さも魅力のひとつだろう。
各ブースにはサインを求める人の列が客席最上段からステージ前まで伸びる大混雑。それ以上に印象的だったのは、怪談師の皆さんとファンの方々の親しそうな雰囲気。第一部と第二部の合間のクラファンの報告やサプライズイベントの告知、さらには主催者二人の怪談にも、その都度、拍手で客席が反応し、主催側だけでなく参加者からも「上野奇々怪々」を盛り上げようという温かい雰囲気が伝わってきたことも書き添えておきたい。
■怪談界の“女帝”と“帝王”が遂に登壇
さて、すっかり日も落ちてきて、演目のせいか、なにやら肌寒くなってきた18時半。再び水沢隆広さんの開会宣言で幕を開 けた第二部は「灯されるあかりはわずか。水辺に揺蕩う怪談夜噺」と銘打った、川奈まり子さんと夜馬裕(やまゆう)さんによる怪談ライブ。
賑やかなバラエティというかセッションのノリだった第一部とは一転。夜の闇も広がってきて雰囲気満点なステージにまず登場したのは、『実話四谷怪談』『迷家奇譚』『東京をんな語り』などで知られる怪談作家の川奈まり子さん。
いつものように瀟洒(しょうしゃ)な着物をまといステージ中央に向かう姿に客席の視線が一手に惹き寄せられる。歌舞伎なら「〇〇屋!」と寄席だったら「待ってました」「たっぷり!」なんて掛け声が飛びそうなぐらいの風情だ。
広いステージにポツンと置かれた椅子に腰かけ、すっと語り始めたのは『実話四谷怪談』の取材の際に、仙台在住のとある女性から聞き取った怪異体験談だ。詳しい内容紹介は差し控えるが、鶴屋南北の『東海道四谷怪談』も真っ青な男女の情念が絡まり合ったような背筋の寒くなる話だった。
■「怪談の帝王」と呼ばないで!?
大トリを務めるのは「怪談の帝王」こと夜馬裕さん。事前のメッセージ映像では「怪談イベントの在り方や未来を変えるようなイベントになれば」と出演快諾のコメントを寄せていただけに、颯爽と登壇するや、最近聞いて一番面白かった話を本邦初公開で披露してくれた。
しかも、その怪談たるや「記憶と枯れ井戸」にまつわる不気味な話。にこやかに語り掛ける姿とは裏腹に、次から次へと不可解なエピソードが散りばめられ、これぞ「厭談」という結末まで一気に持っていかれた。
川奈さんのステージもそうだったが、最前列で撮影している際、客席の皆さんの意識がグーーっと引き込まれていくのが、背中でもヒシヒシ感じられるほど。お二人の熱演を引き出したのも、こうした客席の反応が要素の一つ。陳腐な言い回しだが「ライブは演者と観客が創り上げる共同作品」というのを痛感した。
なお、怪談後にはMC島田さん、川奈さんも登壇してクロストーク。夜馬裕さんが「最近、『怪談の帝王』を自称していると誤解され困ってるんです」とこぼす一幕も。
■赤ちゃんから仕事帰りのサラリーマンまで
さて、レポートの最後にまとめとして。夜馬裕さんのコメントに「怪談イベントの在り方を変える」とあったが、事実、客席の様子を見るだけで「これは新しいものが生まれた瞬間に立ち会えたな」という手ごたえを感じた。
何より、冒頭に書いたように赤ちゃんを抱いたお母さんから、イベント後半には「これ、何をやってるの? 怪談、へ~、面白いね~」と、お仕事帰りらしき中年サラリーマン4人組が楽しげに客席に向かう姿まで目撃。
さらに、帰り口で様子をうかがっていると、最初に見かけたデート中らしき若者二人が声を合わせて「最高だったね~!」と微笑み合っていた(羨ましいかぎりw)。怪談ブームと言われるここ数年だが、これだけ幅広い層を集め(しかも大半は怪談イベント初体験!)、しかも皆満足げに帰っていくのは、正直、なかなか見たことがない。
イベントのフィナーレ、演者全員が壇上に上がる中、MCの島田さんが「次は日比谷(野外音楽堂)ですね?」と言っていたが、来場者は600人超、クラウドファンディングは当初目標を遥かに超える100万円を集め、支援者も200人超えと、集客も支援も大成功だった「上野奇々怪々」。本当に日比谷野音で開催される日が来るかもしれない。