■会社員をしながら怪談師をするメリット 

青柳碧人

青柳 なるほど。じゃあ知名度がさらに上がって、おばけ座(※6)のチャンネルに怪談が提供されてくるようになるのが理想的な形ですか。 

※チビル松村、深津さくら、ワダ、伊勢海若の4人が2023年に結成した怪談ユニット。それぞれが取材・蒐集した怪談を公式チャンネルで語るだけでなく、積極的にイベントも開催(詳細は対談第1回で)。

 

松村 おばけ座はメンバーが全員、怪談蒐集家なので、奪い合いになりそうですね(笑)。個人的にDMなどで提供してもらえるようになるのが理想です。徐々にそうなりつつあるので、取材は以前に比べて楽になりました。 

 

青柳 会社の人たちもチビル松村としての活動を公認しているんですね。 

 

松村 クリエイティブ系の副業に寛容な会社なんですよ。幅広い職種の人たちと日々知り合えるのは、会社員をしているメリットですね。怪談好きだと知られていると、面白がって体験談を話してくれる人も増えますし。 

 

青柳 それは羨ましい。僕も出版業界でよく取材するけど、相手が作家だと「それ、どこにも書いてない?」と確認する必要があるんですよ。まだ書いていなくても、この先どこかに発表するかもしれないし。 

 

松村 僕がメディアでよく披露している「椅子の話」「ウルトラソウルの話」は、会社の大阪支社の先輩から取材したものです。その先輩は話し上手で、怪談的なセンスもある方なので、完成されたエピソードとして話を提供してくれました。 

 

青柳 椅子の話はチビルさんの代表作じゃないですか。確かにあの話は、話し下手な人が語っても面白さは伝わらないかもしれない。 

 

 

■編集者を撒いて夜の怪談蒐集へ 

チビル松村

松村 会社員は自由に取材旅行ができないなどのデメリットもありますが、面白い人とほぼ自動的に会えるというのは僕にとって大きいです。青柳さんは取材旅行によく行かれていますよね。 

 

青柳 いや、それも他の仕事に絡めてですよ。子どもがまだ小さいから、単独で遠出はしづらくて。サイン会や書店回りで遠方に行って、夜みんなでご飯を食べて、編集者と同じホテルチェックインしてから、こっそり夜の街に取材に出る(笑)。別に隠すこともないんですが、旅先では単独行動したいんですよ。 

 

松村 『怪談青柳屋敷』にも旅先で取材した話が結構入っていましたね。 

 

青柳 そういえば本には載せなかったけど、大阪の千日前で取材した話があるんです。とある飲み屋のマスターが臨死体験をしたらしくて、「三途の川の幅はみんな広いと思っているけど、本当は小川だよ」と教えてくれました。なかなかリアルな発言ですよね。そのくせ有名な千日前デパートの怪談は信じていなくて、幽霊がタクシーに乗るわけないだろ、と言ってましたけど(笑)。