■日本発!ノーベル賞級の大発明
片岡氏が考えたのは、体に優しく化粧品や医薬品に使われている高分子素材のポリエチレングリコール(PEG)とポリアミノ酸を使った極小のカプセルだ。この2種類の高分子物質を混ぜると、水に混じらない性質と電気的に惹きつける性質から球状になる。その際に運びたい薬品を混ぜておくと、薬品を包み込むように球(カプセル)が作られる。
化学物質でできたカプセルのサイズは20~100ナノメートル、1ナノメートルは100万分の1ミリだ。細胞の平均的なサイズは0.02ミリなので、細胞よりもはるかに小さい。
このカプセルがガン腫瘍に侵入すると、ガン腫瘍は他の細胞よりも酸性度が高く、酸性度が高まるとカプセルを形作る結合が弱くなり崩壊。これによりカプセルの中の薬剤が放出される仕組み。
化学物質の性質を利用することで、薬品を患部に届ける仕組みができたというわけだ。このナノDDSシステムの発明と研究の功績により、片岡氏は2023年度クラリベイト引用栄誉賞など数々のバイオ科学関連の賞を受賞、ノーベル賞候補として名前が挙がっている。
■魚ロボットが血管を泳ぎ回る
さらに、先に挙げた「患部を外科治療するナノ低侵襲治療システム」を実現するには、まさにSF的なロボットが必要になる。血管内を移動し、患部で手術を行なうロボットなんて、そんなものができるのだろうか。
まだまだ基礎研究でしかないが、そのようなナノボットはできつつある。アメリカで開発中の「ナノボットフィッシュ」は、3Dプリンタで造られた高分子製の魚型ロボットだ。磁気で外部から操作、血液中を泳いで移動し、患部に着くと口を開けて薬を放出する。
サイズは0.05~0.1ミリと細胞より大きいので、ナノDDSシステムほど患部を精密に狙うことはできない。ただ、高分子素材の刃を作り、ハサミのように組織を切り取ることも不可能ではないらしい。
将来、このような高分子素材のロボットを使って、体内で患部を手術できるようになるだろう。片岡氏のナノメディスン、体内病院計画は決して夢物語ではないのだ。
さらに後編では、体にマシンを埋め込み、病気を治すどころか、人間を人間以上に変えてしまう未来の技術「インプランタブルデバイス」を紹介しよう。これはまさにサイボーグ、科学の力で超人的な力が手に入る魔法の技術なのだ。