■店長たちは「人身御供」だった!?

 

暗い地下室

地下室の奥でヒガさんが見た「異様な光景」とは?

画像:AdobeStock/FireFlyで作成

 恐る恐る倉庫の奥のドアを開いたヒガさんの前に、異様な光景が広がっていた。壁一面に行方不明になった店長たちの顔写真が貼られていたのだ。どれも疲れ切った表情をしていて、どの写真にもマジックで「捕まり役」と殴り書きされていた。

 

 その言葉の意味は、夜の街に精通していたヒガさんにはすぐわかった。店長たちは、単に「姿を消した」わけではなかった。警察に逮捕されるための「人身御供」だったのだ。そして、その中にはもちろん、Sの写真もあった……。

 

「捕まり役選ばれるのは、何かしらトラブルを抱えた地元の不良や、内地から逃げてきた犯罪者、いわば“ワケあり”の連中で、そいつらは店が警察に摘発されたら、必ず逮捕される運命を背負ってたんだ

 

沖縄の繁華街

一見にぎやかな沖縄の夜街だが、やはりここにも恐ろしい噂が……

(画像はイメージ。本文とは無関係です)

 

「もし、捕まり役を拒んだらどうなるんですか?」

 

 私が恐る恐る尋ねると、ヒガさんは一度目を閉じてから、疲れたような声で答えた。

 

「逆らったら……物理的に消えていなくなるんだ。痕も残さずにね」

 

「物理的に」と言うときの、ヒガさんの感情の消えた顔を見て、私は背筋が凍りつくような寒気を感じ、震える声で訊ねる。

 

「どうして、そんなことを……?」

 

 能面のような顔のまま、ヒガさんはボソボソと答えた。

 

店のオーナーにすりゃ、店長たちなんてただの道具に過ぎないからさ。使い捨てにして、違法な店を営業し続けるための……」

 

 

■店長たちの写真に奇妙な点が…

 

「気味が悪いのは、逮捕された店長が誰一人戻ってこないことだよ。釈放されたはずなのにフッと行方が分からなくなる。まるで何かに操られたみたいに消えてしまうんだ」

 

 ヒガさんの言うとおりで、風営法違反で摘発されても、すぐに夜の街に戻ってくるのはよくある話。そのまま島から姿を消してしまうというのは奇妙な感じがする。

 

「それに奇妙といえば、消えた店長たちの写真を、ずっと壁に貼ってるっておかしくない?」

 

 確かに、「捕まり役」にした“証拠”をわざわざ取っておくようなもの。ワケがわからない。混乱する私に、ヒガさんは「しかもね──」と話をつづけた。

 

「どの写真も、口のところが黒く塗り潰されていたんだよ……」

 

 

■それは警告かまじないか?

 

黒く塗り潰された口

黒く塗り潰された口は「しゃべるな」なのか「息の根を止める」の意味なのか……

画像:生成AI(AdobeStock/FireFlyで作成)

 それは「何もしゃべるな」という警告なのか、それとも何かの“まじない”なのか、写真を前にしてヒガさんも混乱したという。そして、そのとき──。

 

 突然、彼の携帯電話が鳴った。しかも「非通知」の着信。恐る恐る出たが無言ですぐ切れた。

 

「その瞬間、これ以上探ったら俺も消えることになるって直感したよ。電話の向こうにいたのが誰か、あるいは人じゃない何かなのかわからないけど、もう関わっちゃいけないってね……」

 

 ヒガさんは震えながら地下倉庫を後にし、それ以降、二度と「X」に足を踏み入れることはなかった。それどころか、経営する店をすべて畳み、夜の街ともすっかり縁を切ったという。

 

「今はこうして、目立たないように暮らしているけど、この辺に来ると、まだ何かに見られている気がするんだよね……」

 

 そう苦笑いするヒガさん。沖縄の夜の街には今もなお、「捕まり役」として選ばれる者、そして彼らを「いけにえ」にするモノたちが存在しているのかもしれない。