■南北縦断道路、緑のトンネル
筆者が注目したのが、ミョンソクが泣いた場所である。緑のトンネルを吹く風が彼のほほをやさしく撫でた場面は、島を南北に縦断する道路で撮影されたと推察する。おそらく空港のある島の北部から車で西帰浦のリゾートに南下するときに通る1131号線(漢拏山の東側)か1139号線(漢拏山の西側)だろう。
『私たちのブルース』を観ればわかるように、済州の風光と言えば誰もが海を思い出す。しかし、筆者がもっとも済州らしさを感じるのは、この縦断道路だ。済州空港を出るとヤシの木が迎えてくれるものの、済州市は意外と都会なので、南国感にひたるためにはさらに南下する必要がある。
漢拏山の裾野に入ると、緑が次第に濃くなってくる。本土の山間部ではなかなか見られない色合いである。緑のトンネルを抜け、牧場で草を食む牛たちを眺めているうちに、旅人はいつのまにか心の鎧(よろい)を脱いでいる。
ミョンソクの繊細さを描く場面に、白い砂浜や海岸線ではなく、あえて南北縦断道路の緑のトンネルをもってきた、ドラマ制作者のセンスに脱帽である。
済州によって変貌した人間はもう一人いた。“腹黒策士”と呼ばれるクォン・ミヌ(チュ・ジョンヒョク)だ。
済州滞在中(14話)、妙に人間味を出してくるクォン・ミヌをチェ・スヨン(ハ・ユンギョン)が問い詰める。
「いつも嫌味ばっかり言ってるくせに、いったいどうしちゃったの?」
ミヌの答えは腹立たしいほど二枚目だった。
「済州島だから」
韓国渡航がしやすくなった今、みなさんも自らの目と感性で、済州の魔法を体感してもらいたい。
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