美男美女というわけでもなく、主役を張るわけでもないので、顔を見てもすぐに名前は出てこないが、あ~、この人映画やドラマでよく見るという俳優がいる。
Netflix韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の7話と8話に登場する依頼人で、我が村を貫こうとする道路開発に反対する村長を演じたチョン・ギュス(1957年生まれ)もその一人だ。熱弁中にたびたび単語が出てこなくなり、彼の部下やヨンウ(パク・ウンビン)が合いの手のように助け船を出すシーンは、テンポのよい日本の漫才のようで楽しかった。
村を視察することになったミョンソク(カン・ギヨン)、ミヌ(チュ・ジョンヒョク)、スヨン(ハ・ユンギョン)、ジュノ(カン・テオ)、ヨンウらハンバダ一行の前で、村の魅力を嬉々として話す村長の姿が、筆者がこれまでしてきた田舎町の取材で出会う人々と重なり、心があたたかくなった。野暮で口は悪いが人情家。チョン・ギュスはこういう役をさせたら天下一品である。
筆者は映画好きなので、初めて彼を認識してから23年になる。映画だけでもすでに40作以上に出演した大ベテランだ。今回は韓国の “国民アジョシ” と呼びたくなる俳優チョン・ギュスの魅力を、映画を通して見てみよう。
■全羅道訛りが迫力ある『SPYリー・チョルジン 北朝鮮から来た男』
まず最初は、『SPYリー・チョルジン 北朝鮮から来た男』(1999年/チャン・ジン監督)。ソウルに潜入した北朝鮮のスパイ(ユ・オソン)が一人でタクシーに乗り込むが、チョン・ギュス扮する運転手と相乗りしてきた3人(イ・ムンシク、イム・ウォニ、チョン・ジェヨン)はグルでタクシー強盗だった。
車内で雑談し始める相乗り客が「オレは木浦」「オレは淳昌」「オレは筏橋」と出身地を告げると、さっきまで標準語で話していた運転手までが「オレは光州だ」と全羅道弁で話し出し、4人で盛り上がるシーンはなかなかおもしろかった。
4人のうちチョン・ギュスとイム・ウォニは実際に全羅道出身なので、訛りにも説得力がある。強盗に扮した俳優4人は当時無名だが、イ・ムンシクは『麻婆島』の1と2(2005、2007)で主役、イム・ウォニは『奴が嘲笑う』(2015)でイ・ソンギュンの助演、チョン・ジェヨンは『夜の浜辺で一人』をはじめとするホン・サンス監督作品で主役を張るなど、その後の活躍は周知の通りだ。