Netflixドラマ『ナルコの神』の主演ハ・ジョンウ(1979年生まれ)の演技はすばらしかった。父の顔、そして目的のために無心で闘う男の顔、どちらも素敵だった。

 知っている人もいると思うが、彼の父キム・ヨンゴン(1946年生まれ)も俳優である。お父さんは70年代的大味な美男。顔も身体も大きく、権威の象徴的な役が似合う人。いい意味での大根役者だ。失礼だが、このお父さんからハ・ジョンウのような多面的な役がこなせる俳優が生まれるとは不思議である。

 ハ・ジョンウは若い頃、いくつかのドラマに出ていたようだが、彼はやはりスクリーンの人だ。まだ40代半ばなのに出演作は40本以上。早くもベテラン俳優の風格だ。自ら映画も撮っている。

 今回はハ・ジョンウの魅力を120%満喫できる作品を紹介しよう。

『ナルコの神』ではエイホンオ)が物語を急展開させた。写真は2007年、ソウルのエイ料理専門店で偶然会ったハ・ジョンウのお父さんキム・ヨンゴンと筆者

■韓国犯罪映画史に残る屈折キャラを演じた『チェイサー

 日本のファンの多くは『チェイサー』(2007年/ナ・ホンジン監督)で初めてハ・ジョンウを認識したのではないだろうか。

 物証がないのをいいことに、失踪した女性は全部自分が殺したと、あっさり自白する場面。尋問する女性刑事(パク・ヒョジュ)にあからさまにセクハラ発言をする場面。精神分析官(イ・ジョング)に「おまえは性的不能者だろう」と詰め寄られてキレる場面など、トラウマ演技のオンパレードだ。

 ハ・ジョンウが演じた殺人鬼は、韓国犯罪映画史に残る屈折キャラと言っていいだろう。