かつて裕福だったジスは、傲慢な夫と別れて1人で中学生を育てていた。生活は苦しい。ピアノで仕事を得ていた。

 一方のジェヒョン。副社長として労働者の解雇を積極的に進める非情な経営者になっていた。かつては、社会の不正義を糾弾するために学生運動に心血を注いでいたのに……。

 こうした現実を厳しく描く合間に、「輝かしい青春の日々」がドラマの中で甦ってくる。

 デモに巻き込まれて負傷したジス(チョン・ソニ)を気遣って、ハンカチで応急処置をしてくれたのが見知らぬ先輩のジェヒョン(ジニョン)だった。

 それ以来、一目ぼれしたジスがジェヒョンに猛アタック。しかし、彼はつれない。ジスの気持ちを無視してばかりだ。でも、彼女の思いが伝わるときがやってくる。そうした場面をドラマは抒情的に見せていく。

 しかも、20年前の「過去」は回想シーンとして描かれるのではなく、まるで、「現在」と同時進行のような形でドラマを彩っていく。「時が行ったり来たり」するのは確かだが、「現在」だけでは切なすぎる。20年前の華やかな時代を並行して見せることで、ドラマはタイトルにあるような花様年華(人生で最も輝いた瞬間)を思い出させてくれるのだ。

『花様年華~君といた季節~』画像出典:tvN

 このところ、面白いのは確かなのだがギスギスした人間関係のドラマばかり増えてきた。そう思っていた矢先に『花様年華~君といた季節~』を見ると、息抜きの時間に穏やかな気持ちでいられる。

 もちろん、意図的に作られていく場面もあるのだが、ノスタルジックな展開は「甘美な追憶」につながっていて、どこか癒される。

 特に、40代になっていくイ・ボヨンの優美な演技は、このドラマを見続ける強力な根拠になっている。