韓国のドラマや映画が国際的に脚光を浴びるようになって20年が経過したのを機に、時代ごとに輝きを放った名優たちの活躍を振り返るシリーズ連載。その4回目は、2010年前後から現在まで活躍が目立つ俳優7人を取り上げる。

■大物先輩俳優の代わりが務まりそうなファン・ジョンミン

 ある俳優の魅力を考えるとき、その人の代わりができる俳優がいそうにないことが、評価のポイントのひとつになる。

 たとえばチェ・ミンシク。彼の代表作といえる『悪いやつら』(2011年)のイッキョン(悪徳税関職員→経済ヤクザ)を思い出してほしい。強気と弱気が同居している人たらし。調子に乗り過ぎてひどい目に遭うが、懲りずにまた調子に乗る。唾棄すべきクズなのだが、どこか可愛げがあって憎み切れない。最終的には勝ち組に回る。

 誰も真似できそうにないのだが、ちょっと待ってほしい。ファン・ジョンミン(1970年生まれ)がいる!

 ファン・ジョンミンならイッキョンのような複雑怪奇な怪物が演じられるような気がする。二人とも若い頃は田舎の純情青年が似合ったのだが、のちに悪の権化が板についてきたという共通点もある。

 イ・ジョンジェと共演した映画『新しき世界』(2012年)の華僑系ヤクザ役、『哭声/コクソン』(2015年)のいかがわしいムーダン役、『アシュラ』(2016年)の悪徳市長役。そして2022年のNetflixドラマ『ナルコの神』の麻薬王役を見ると、ファン・ジョンミンのイッキョンを見てみたくなる。男の弱さや可愛らしさの演技は、チョン・ドヨンに恋焦がれる青年を演じた『ユア・マイ・サンシャイン』(2005年)や、家族のために自分のすべてを犠牲にする朝鮮戦争避難民を演じた『国際市場で逢いましょう』(2014年)で実証済みだ。

『国際市場で逢いましょう』で家族のために働く主人公(ファン・ジョンミン)がリヤカーで引っ張っていたトロ箱

 数年前までは演技のくどさが鼻につくこともあったが、2018年の映画『工作 黒金星(ブラックヴィーナス)と呼ばれた男』の工作員役で感情を殺した男の演技もできることを証明した。ここ数年、悪役が続いたので、久しぶりにお人好しの純情青年の演技も見たくなった。

名優製造所と呼ばれるロックミュージカル『地下鉄一号線』(写真は2018年のリバイバル上演時)。ソル・ギョング、ファン・ジョンミン、チョ・スンウ、キム・ヨジンイ・ジョンウンアン・ネサン、チャン・ヒョンソン、パン・ウンジンなどを輩出している

■硬軟演じ分けられ、親しみやすさもあるハ・ジョンウ

 ハ・ジョンウ(1979年生まれ)はスターらしいオーラをまとっているが、突き抜けた美男ではないので、筆者の周りの韓日女性からは「つきあいたい」「結婚したい」という声がよく聞かれる。いい男なのだが、隣りのお兄ちゃん的な親しみやすさもあるのだ。

 多くの人が彼を映画『チェイサー』(2007年)で認識したはずだ。韓国映画史に残るサイコな連続殺人犯役で、取り調べる精神分析官にデリケートな部分を看破されたときの表情の闇の深さは今思い出してもゾッとする。

『チェイサー』の重く暗い役柄に引きずられることなく、その翌年に撮影された映画『素晴らしい一日』(2008年)では、軽薄だが憎めない青年を演じ、相手役の大物チョン・ドヨンに負けない存在感を示した。

 その後、2009年の映画『国家代表!?』では、自分を海外養子に出した母親を探すため札幌五輪でジャンプスキーに挑戦する若者を演じた。2011年の映画『悪いやつら』では、腕っぷしが強いのに人たらしの兄貴分(チェ・ミンシク)に振り回される組頭を好演。

 2019年の映画『白頭山大噴火』や、2022年のドラマ『ナルコの神』では、大事件に巻き込まれるが、彼の帰りを心待ちにする家族のため闘う男を熱演している。

 ここ数年、シリアスな演技が続いているので、久しぶりにコミカルなハ・ジョンウを見てみたい。

釜山影島のヒンヨウル文化マウルに掲示された『悪いやつら』のポスター(中央)。左がハ・ジョンウ、右がチェ・ミンシク