ソン・ガンホの代わりができそうな稀有な存在、キム・ユンソク

 キム・ユンソク(1968年生まれ)は、40歳くらいで売れ始めた典型的な遅咲きスターだ。2006年の映画『タチャ イカサマ師』の全羅道訛りの賭博師役でギラっと光り、その翌年の映画『チェイサー』でハ・ジョンウ扮する殺人犯を地を這うように追いかける役で大ブレイクした。

 人間臭さと、年に似合わぬ可愛らしさを兼ね備え、ソン・ガンホの代わりができるのではと思わせる役者だ。いや、『タチャ イカサマ師』や『10人の泥棒たち』(2012年)で見せた艶っぽさは、ソン・ガンホにはないものかもしれない。筆者がおすすめしたいのは、2009年の映画『亀、走る』だ。同僚には力を貸してもらえず、妻(キョン・ミリ)には罵倒されっぱなしの田舎刑事はハマり役だった。

  2021年の映画『モガディシュ 脱出までの14日間』のラストシーンの抑えた演技にも泣かされた。帝王ソン・ガンホを超える可能性のある数少ない俳優である。

■知的かつ洒脱な国民の母、ユン・ヨジョン

 キム・ヘジャナ・ムニコ・ドゥシムに次いで、“国民の母”と呼ばれるベテラン女優、ユン・ヨジョン(1947年生まれ)。彼女のインタビュー映像などを見ると、話しぶりも若々しくユーモアセンスも抜群で、70代半ばにはまったく見えない。

 コ・ヒョンジョンチェ・ジウ、キム・ミニとともに実名で出演したセミドキュメンタリー映画『女優たち』(2009年)では、「『国民の母』なんて呼ばれたくない」と言っているように、イ・ジョンジェ扮する富豪の家政婦を演じた映画『ハウスメイド』で見せた高級ワインを飲むようなシーンが似合う。その一方で、『チャンシルさんには福が多いね』(2020年)の晩学のハルモニも自然に演じてみせた。

 前記の映画『女優たち』で、日本で活躍するチェ・ジウや中華圏で人気があるソン・ヘギョを羨む後輩女優に対し発せられたこんなセリフがあった。

「あんたたちも海外でがんばりなさい。私は在来市場(韓国)を守るよ」

 台本のセリフとは思えない。彼女のセンスから生まれた言葉だろう。

 在来市場を守ると言いながら、2021年には『ミナリ』で米国アカデミー賞助演女優賞を獲ってしまうのだから痛快である。

『チャンシルさんには福が多いね』で主人公チャンシルが下宿したハルモニ(ユン・ヨジョン)の家があった弘済洞のタルトンネ
 

■ゾンビ映画の企業戦士役がハマったコン・ユ

 我が国の典型的な二枚目俳優、コン・ユ(1979年生まれ)。ドラマ『コーヒープリンス1号店』(2007年)で一躍人気スターとなり、主演作『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』(2016年~2017年)は大ヒットした。

 映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)で演じたファンドマネージャー役はすばらしかった。コン・ユが扮したのは顧客を金としか見ないような男で、あまり人間味は感じられず、家族もかえりみないのだが、走行中の高速鉄道車内で娘や周囲の人々を守ろうとゾンビと戦ううちに人間らしさを取り戻す役には感動した。

 コン・ユの好青年役は見飽きたので、これからはブラックな役も演じてほしい。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』の高速鉄道車内パンデミックは、ソウル駅のプラットホームから始まった