そんなソウルに新型コロナウイルスの嵐が吹き荒れた。2年以上、韓国に向かうことができなかった。ようやく2022年の暮れ、ソウル駅に降り、6軒の宿の1軒に向かったのだが、跡形もなく消えていた。看板もない。しかたなくそこから数メートル坂をのぼった宿に行ったのだが、そのドアの前で立ち尽くすことになる。ドアがワイヤーのようなものでぎりぎりと巻かれていた。閉鎖だった。

 しかたなく大通りを越えたところにある温泉マーク宿に向かった。そこには3軒の宿が連なっていたのだが、その3軒ともドアは閉じられ、チェーンが巻かれていた。6軒のうち、5軒がなくなっていた。気をとり直して残る1軒の前に立ったが、その宿も消えていた。気温はマイナス15度。ドアの前で鼻をすする。外国人が多い宿ではなかった。コロナ禍を機に再開発ということなのだろうか。

ソウル駅周辺のモーテルのドア。つらいです

 温泉マーク宿をひいきにしていたおじさん旅行者は行き場を失った。地下鉄の通路で、帰る家を失ったソウルの人たちと一緒にソジュ(焼酎)でも呷りたい気分だった。

 僕はどこへ行ったらいい?

 ウイルスを呪ったところで、温泉マーク宿が復活するわけではない。もともと時流にとり残された宿群である。コロナ禍はそんな世界を一掃し、僕の旅のスタイルを消してしまった。

「しかたないか」

 スマホをとり出し、アゴダなどのサイトを開いてみる。鼻白む思いで宿探しをはじめた。これがポストコロナの僕の旅?