シリーズ連載「韓国人の道民性」では、日本のみなさんが “推し” や、ドラマや映画のキャラクターの理解を助けるような材料を提供するため、我が国、韓国の道民性について語っている。

 1990年代後半から日本の人たちと関わるようになって驚いたことがあった。初対面の日本人どうしが、「お国(故郷)はどちらですか?」「〇〇県です」「ああ、一度出張で行きましたよ。〇〇が有名ですね」のように、楽しげに出身地の話をしているのだ。

 私の日本の事務所(出版企画会社)でも、何年か前まで県民性の本をよく作っていた。それどころか、有名タレントが出演する県民性のバラエティ番組は、今もゴールデンタイムで放送中だ。日本の人にとって、出身地や地域性は差し障りのない話題、いや、むしろ楽しい話題であることが驚きだった。

 韓国では、出身地や地域性の話は最近ではタブーとまでは言わないものの、今もデリケートな話題である。その背景には、慶尚道全羅道の葛藤がある。それはざっくり言うと強者対弱者の対立だ。

韓国の南半分の西側が全羅道、東側が慶尚道。この2地域はある時期まで人々の行き来も少なかった
歴代大統領のうち、パク・チョンヒ慶尚北道の亀尾出身。チョン・ドゥファン慶尚南道の陜川出身。ノ・テウは慶尚北道の達城郡出身。キム・デジュンは全羅道の新安出身、ノ・ムヒョンとムン・ジェインは慶尚南道の金海と巨済出身だが、支持基盤は全羅道

■全羅道の人を知るためのいくつかの事柄

 道民性(県民性)というのは、言い換えれば「お国柄」「地域性」のようなもので、大変曖昧な概念である。「〇〇だから〇〇道の人は〇〇だ」と短絡することになってはいけない。

 しかし、ある人が育ってきた風土を知ることはその人を理解する助けになることは確かだろう。

 今回は全羅道(チョルラド)の人を理解するうえで、知っておきたいことをざっくり挙げてみよう。

・歴史的に苦難の道を歩んできた

 全羅道は古代百済ゆかりの地。慶尚道は古代新羅ゆかりの地だ。百済が新羅に滅ぼされて以来、長らく差別され収奪される存在だった。その流れから歴代大統領の多くが慶尚道から輩出され、1990年代末に金大中大統領が誕生するまで、全羅道はインフラ整備などの面でも他地域と比べ著しく遅れをとっていた。

全羅南道の田舎の市場。2000年頃まで、他の地域と比べても明らかに枯れた感じだった(2006年撮影)

*参考になる映画

 映画『黄山ヶ原』(2003年)。新羅(慶尚道)と百済(全羅道)の対立の歴史が描かれている。出演パク・チュンフンチョン・ジニョン

 映画『愛してるマルスンさん』(2005年)。全羅道出身であることを隠して暮らす看護助手(ユン・ジンソ)が登場。主演ムン・ソリ

 映画『危険な相見礼』(2011年)。全羅道出身であることを隠して慶尚道一家の娘(イ・シヨン)と結婚しようとする男性(ソン・セビョク)が登場。出演キム・スミ、ペク・ユンシク。