5年ぶりに日本に旅行に来た韓国人女性2名(ラジオの構成作家と出版社社長)のアテンドで、初日は東京・大塚駅周辺の花街跡を歩いたり、都電荒川線で下町観光をしたりした私の事務所の代表(山下龍夫/編集者/60歳)。2日目は日本を代表する観光名所、鎌倉へ向かった。

■韓国人ゲストをアテンド、湘南新宿ラインのグリーン車で鎌倉へ

 昨夜は二人をホテルに送り届けてから、居酒屋で一杯やってしまった。少々二日酔いだが、なんとか待ち合わせの朝8時20分に大塚駅にたどり着く。2人を連れて池袋から湘南新宿ラインに乗る。最初の目的地、北鎌倉駅までは1時間ちょっとだが、せっかくなので2人には座ってもらいたい。ところが、湘南新宿ラインのグリーン車は座席指定ができないのだ。

 池袋駅に電車が入ってくる。ホームから見たグリーン車はけっこう席が埋まっていた。桜の季節は過ぎたとはいえ、さわやかに晴れた4月上旬。鎌倉詣でする人は多いのだろうか。ドキドキしながら乗り込むと、2階席になんとか二人並んで座ってもらうことができた。自分は連結口の近くで立っていたのだが、乗客の大半が新宿と渋谷で降りてしまい、二人の近くに座ることができた。この日は平日で、グリーン車の主要顧客は通勤客だったのだ。

池袋駅を朝8時43分に発った湘南新宿ラインのグリーン車は9割近い乗車率だった

 神奈川県内に入ると、人の家の庭を走り抜けるような都電荒川線とはまったく違った車窓風景が続く。見晴らしがよい。韓国では時間と便数の多さから高速バスを利用することが多いが、本当は汽車旅がいちばん好きだ。ソウルから木浦へもムグンファ号に乗って6時間がかりで行ったことがある。韓国映画に登場する汽車旅に印象的なものが少なくなかったので、わざわざそうしたのだ。

 古くは、『神様こんにちは』(1987年)の夜汽車のシーン。血液のがんで闘病中だが、最近久しぶりにマスコミの前に姿を現したアン・ソンギ扮する小児まひの青年と放浪詩人(チョン・ムソン)が、訳ありの妊婦に扮したキム・ボヨンと対面座席で出会う場面だ。同年の映画『女と男 愛の終着駅』の冒頭、昨年亡くなった女優カン・スヨンNetflixJUNG_E/ジョンイ』主演)扮する女がベトナム戦争の後遺症に苦しむ男(イ・ヨンハ)と出会ったのも車内だった。

 新しくは、『The Witch 魔女』で女子高校生ジャユン(キム・ダミ/『梨泰院クラス』『その年、私たちは』ヒロイン)が列車の中で茹で卵をほおばりながら、サイダーを流し込むシーンが記憶に残っている。
カン・ドンウォンの映画デビュー作『彼女を信じちゃダメですよ』では、ヒロインに扮するキム・ハヌルと出会う場所がムグンファ号の車内だった。効率優先ならKTXだが、旅情優先なら窓も大きく座席もゆったりしているムグンファ号がおすすめだ。