3年ぶりにソウルの明洞を歩いた。新型コロナウイルスが吹き荒れ、明洞は一時、ゴーストタウンのようになってしまった。その街の活気がようやく戻りつつあった。
開いている店は7割ほど。将来を見越して新たに明洞に進出した店もみかけた。
明洞は韓国人の街かというと、少し首を傾げてしまう。ソウルの人々はあまり明洞に足を向けない。外国人が多いから敬遠するという意味ではない。明洞より目的に合ったエリアはいくつもあり、そこのほうが安く、いいものが手に入る。韓国の人々の好みに合う飲食店も多い。明洞は外国人向けの街というイメージで、家賃も高い。ソウルの人々は明洞を素通りしてしまう。
しかしコスメの世界は違った。明洞ほどコスメ、とくに韓国コスメの店が密集しているエリアはなかった。明洞の多くの店が外国人になびいていたが、コスメ店は韓国人客も少なくない。
韓国のコスメは、専門店かドラッグストアにそろっている。ドラッグストア系ではオリーブヤングが存在感を放っている。「韓国のマツキヨ」という人もいるが、コスメ系商品の品ぞろえは、日本のドラッグストアーをはるかに超えている。オリーブヤングの本店は明洞にある。
昨年末、ソウルに行くというと、娘から、「リップスティックを買ってきて」と頼まれた。オリーブヤング指定である。ネットで調べて商品名と一緒に伝えてくれる。口コミは高評価だが、韓国にいかないと買えないらしい。明洞の本店に出向き、スタッフに英語で伝えると、さっとリップスティック売り場まで案内してくれた。テキパキと陳列されるリップスティックを説明してくれる。「韓国製ですよね。これ、人気です」。9800ウォン、約1000円。それが娘が指定した商品だった。
ソウル在住日本人にいわせると、オリーブヤングは少し高いというが、とにかく店舗数が多い。地下鉄を降り、地上に出ると、「おッ、ここにも」といった密度でみつかる。時間のない外国人観光客には心強い。
この種のドラッグストアもコロナ禍前、韓国人がかすんでしまうほど中国人が多かった。中国人の街といってもよかった。
■明洞の街に響いていた中国語、観光客向けの店は今どうなっているのか?
地下鉄の明洞駅を降りると、改札横のスペースはだいたい中国人グループに占拠されていた。明洞で買った品を整理したり、仲間で分け合う中国人たちだった。その多くがコスメやドラッグストアで買った品々だった。それぞれが明洞に散り、目的のものをまとめ買いして駅にもち寄る。まとめ買いは割り引きの対象にもなった。それを駅の改札横で分け合うのだ。それらの品を中国で売る人たちも多く、その値段交渉の中国語が耳に痛いほど響いた。
明洞の街を埋める看板も、日本語が減り、中国語の存在感が強くなった。両替店の表示も、いちばん上に中国語があがり、次いで英語、そして日本語という順番になっていった。
そんな街並みを眺めながら歩いていると、その一角だけ店や看板がなく、高い門に囲まれた立派な建物の前に出た。門に掲げられた表示を見ると中国大使館だった。まるで明洞の街並みを見おろすかのように大使館は建っていた。明洞の一等地である。ここにショッピングセンターが建ったら、ずいぶん話題になるような気がした。