例えば、ク・ギョファン演じるホヨルが、脱走兵を手錠を用いて確保するシーン。韓国では1997年からミランダ警告(逮捕時や取り調べの前に被疑者の権利を告知すること)が導入されていて、今や韓ドラあるあるのひとつにもなっている。通常、「弁護士を選任でき、逮捕、拘留を……」などと言うところを、ホヨルは「黙秘権は行使できるが、意味はない。弁護士は専任できるが、前例はない。あと何だっけ……」などと、軍用に設えたミランダ警告(?)を呆けた雰囲気で言い放つ。
D.P.の任務の最中、主人公のジュノが久しぶりに帰宅した際に発したセリフも印象に残る。父からずっとDVを受け続けている母に「なぜ、逃げない?」と言うのだ。逃げた新兵を探しながら、そう声をかける矛盾……。
外の者にはわからない軍内部の異様さが、こうした外の世界と接点があるD.P.のエピソードによって、ひしひしと伝わってくる仕掛けになっている。
劇中では、全6話の中で5つの追跡劇が繰り広げられる。なかでも、最後の物語は本作を象徴するものといえるだろう。ネタばれになるので多くは語らないが、今回観てさらに深く心に刻まれたのは、そのクライマックスのトンネルのシーンだ。
入口に大きく「滅共」(「共産主義を滅亡させる」という意味)と書かれ、「民間人立ち入り禁止区域」と注意書きが添えられたトンネル。その中でホヨルは、軍の不条理に怒りを爆発させる一等兵に「俺たちで変えていこう」と声をかけるのだが、「我々の部隊の水筒には、今も“1953”と書かれている。朝鮮戦争の年だ」と一蹴される。
劇中の舞台は、2014年。つまり60年以上も、軍の中は変わっていないことを示唆している。その一等兵は、アニオタである。今も北朝鮮とは休戦中とはいえ、もう韓国軍の新兵は平和を謳歌する世の中で育った若者ばかりなのだ。
ちなみに、このトンネルがどんなところなのかは、伏線として物語半ばで明かされていた。「いつも走らされているトンネル、あの地下は防空壕だ。元々は北朝鮮が掘ったとか。こっちに侵入するために必死で掘った穴を、俺たちが防空壕として使っている。マジでふざけた話だ」。
社会問題をリアルに描いているからといって、優れたドラマとは限らない。シーズン2は、このホヨルの「俺たちで変えていこう」というセリフに続く世界が描かれていくと思われるが、もちろん簡単に変えられるわけがないのは誰もがわかること。そこにどんなメッセージと人間ドラマを盛り込んでくるのか。いろいろ想いを馳せながら、シーズン2を待ちわびている。
●配信情報
Netflixシリーズ『D.P. -脱走兵追跡官-』独占配信中
[2021年/全6話]演出・脚本:ハン・ジュニ、原作・脚本:キム・ボトン
出演:チョン・ヘイン、ク・ギョファン、キム・ソンギュン、ソン・ソック
Netflixシリーズ『D.P. -脱走兵追跡官-』シーズン2 7月28日(金)独占配信スタート