安眠バスターミナルからタクシーで5分ほどの距離にある「ッタントットンナム食堂」は、1981年創業でケグッチの元祖店といわれる食堂だ。

 ケグッチとは、コッケジャン(ワタリガニの醤油漬け)を食べた後に残る漬け込み液をユクス(スープ)に加え、ワタリガニと浅漬けの白菜キムチを煮込んだ泰安半島の郷土料理。

 煮込まれたスープからは、濃厚なカニの香りと風味を感じられる。殻の中にギュッと身が詰まっているワタリガニは食べ応えがある。浅漬けキムチの程よい酸味が、カニの甘みを引き立ててくれる。

 鍋の具をすべて食べ尽くし満腹になったが、残ったスープにご飯を投入したところ、究極の雑炊となりすべて別腹に納まった。この日はあいにくの暴風雨が吹き荒れる悪天候だったため、食後は観光もせずに静かに宿に戻った。

カニの風味と浅漬けした白菜キムチの酸味がバランスよく調和し最高の美味しさを引き出してくれるケグッチ

■タクシードライバーたちの温かなもてなしが心に染みる

 翌朝、タクシーでコッチ海水浴場にあるハルミ・ハラビ岩(おばあさん・おじいさん岩)へ向かった。

 この2つの岩には「戦闘に出た夫が何日経っても戻らず、待ちわびた妻が岩になってしまった。しばらく経つとその隣に夫の岩ができた」という伝説がある。それとともに、2つの岩の間に沈む夕日が美しく、夕景のベストスポットとなっているのだ。

おばあさん・おじいさん岩の間に沈む夕日が美しく夕景のベストスポットと言われるコッチ海岸

 ドライバーに「昨日は天気が悪くて、夕焼けを見ることができず残念だった」と伝えたところ、「仲間たちが夕景の写真を撮っていると思うから聞いてあげる」とバスターミナル前で客待ちをしていたドライバー仲間たちにすぐに話をしてくれた。

 何度も絶景を撮影した経験がある先輩ドライバーが、ハルミ・ハラビ岩での夕景写真を見せてくれただけでなく、ブログやSNSに使ってもいいと私のスマホに転送してくれた。

 安眠島まで来てくれた外国人へのもてなしというわけだ。その心遣いに大いに感謝するとともに、お礼を兼ねて安眠島を再訪し、今度こそ自分の目で美しい夕景を拝みたいと誓った。

絶景の夕焼け写真を見せてくれるなど、お世話になった安眠島のタクシードライバーたち

●忠清南道・安眠島へのアクセス

 ソウルセントラルバスターミナルから安眠バスターミナル(停留所)まで約2時間20分