サンはうまく答えられず、ドギムは「王様には袖だけならかすめていいのか、それとも襟までかすめてもいいのか、決まったら答えます」と返しているが、かつて交わしたそのやり取りが、ドギムの最期の言葉にかかってくるのだ。

「ただ来世では望むとおりに生きたい」というドギムの言葉に、「少しでも私を恋慕しなかったのか」とぼろぼろと涙をこぼすサンが不憫だが、果たしてドギムは少しも恋慕しなかったのか。その答えは彼女の最期の言葉に読み取れるように思う。

『赤い袖先』(C)2021MBC

 そして、ドギムの死後、彼女を忘れると決意したサンは、新たな側室を娶る。そのことについて、ソ尚宮が語る場面がまた泣ける。側室候補の女性たちは皆どこか宜嬪に似ていた、それでサンは怒ったと。結局、選び直して最後に決まった側室は、宜嬪に何ひとつ似ていなかった、私はなぜかうれしく思ったと。

 実際の史実でも、晩年のイ・サンは妃たちがいるにもかかわらず、周囲の臣下たちを前に「宮中に特別に愛する女人はいない」と公言していたという。それほどまでに、唯一ドギムだけを胸に留め置いたのだろう。原作でこんな一文がある。

「彼が自ら選んだ女人は、その側室が最初で最後だった」

 晩年、サンが彼女の遺品を初めて手に取り、泣き崩れる場面がさらに悲しみを誘う。1人の宮女を恋い慕った一途な想いがここにある。

 この場面は、ジュノ自身、一生分の涙を流したのではないかと思ったほど、とめどなく涙が溢れてとまらなかったと語っている。だからこそ、ラスト「瞬間が永遠になる」場面は深い余韻を残す。

●作品情報

『赤い袖先』

[2021年/全17話]※TV放送は日本編集版の全27話

演出:チョン・ジイン、ソン・ヨナ 脚本:チョン・ヘリ

出演:ジュノ(2PM)、イ・セヨンカン・フンイ・ドクファ

DVD&Blu-ray販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン