さらに、成長する度に頭脳明晰な姿を見せるイ・サンに英祖は称賛を惜しまなかった。
史実を調べていると感じるのだが、1762年に英祖が思悼世子(サドセジャ)を米びつに閉じ込めて餓死させたとき、彼の脳裏には「素行に問題があった息子より名君の素質が十分な孫に王位を継がせたい」という明確な意志があったと思われる。そうでなければ、8日間も米びつを開けなかった理由が思い浮かばないほどだ。
英祖は王家の正統的な世襲を誰よりも重んじる国王だった。それゆえ、イ・サンの出来の良さを心から愛し、王家の未来を託したのであった。それだけに、世孫になってからのイ・サンを守るために最大限の努力をした。思悼世子と敵対していた老論派は世孫に対しても批判的な態度を崩さなかったが、その度に英祖は最愛の孫をかばい続けた。
そんな英祖が死の直前に決断した代理聴政(テリチョンジョン/摂政のこと)は、まさに「一世一代の大英断」と呼べるものだった。
英祖は81歳になっていた1775年11月に、老齢を理由に「世孫に代理聴政をさせたい」と宣言した。このときは老論派の重臣たちがこぞって大反対して、王命を文書にする作業すら妨害するほどであった。
そのとき、英祖の態度は毅然としていた。彼は「国王を守るための軍隊を世孫の配下に置く」という緊急発令をして、イ・サンに強大な権限を与えるように仕向けた。これによって、老論派の反対論を一掃することができたのである。
英祖はその4カ月後に亡くなったが、イ・サンが代理聴政の立場であったからこそ、スムーズに国王を継ぐことが可能だった。
史実では、英祖が徹底的にイ・サンのことを擁護し続けたが、『赤い袖先』では英祖が孫を突き放す場面が多かった。それも、「獅子が我が子を谷に突き落とす」が如き「愛の試練」だったと思えば、妙に納得がいく。王朝を背負っている国王であれば、「愛情の表現」が苛烈であっても何ら不思議ではない。
●作品情報
『赤い袖先』
[2021年/全17話]※TV放送は日本編集版の全27話
演出:チョン・ジイン、ソン・ヨナ 脚本:チョン・ヘリ
出演:ジュノ(2PM)、イ・セヨン、カン・フン、イ・ドクファ
DVD&Blu-ray販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン