2023年夏、『ビニールハウス』という映画が韓国で公開され、2024年3月には日本でも公開されると聞いたとき、にわかに興奮した。

 私が好きな映画にはどういうわけかビニールハウスがよく登場するからだ。

田畑、甕、ビニールハウス。韓国の南西部、全羅道の農村風景(撮影/2016年)

■ビニールハウスが印象的な韓国映画5選!新作『ビニールハウス』他

■村上春樹原作の『バーニング 劇場版』(2018年)

 記憶に新しいのはイ・チャンドン監督の映画『バーニング 劇場版』(2018年)だ。物語は『ソウル・バイブス』のユ・アイン扮する田舎のフリーターと『ペーパー・ハウス・コリア 統一通貨を奪え』のチョン・ジョンソ扮する糸の切れた凧のような娘の再会から始まる。

 そこに、『ミナリ』のスティーブン・ユァン扮する在米コリアンがからみ、彼の「僕はときどきビニールハウスを燃やしているんです」という謎めいた告白で展開していく。本作のビニールハウスは、観る者に安易な解釈を許していないが、それ以前の映画に登場したビニールハウスはもっと牧歌的だった。

■3月日本公開の新作映画、その名も『ビニールハウス』

 世の中が殺伐としてきたせいだろうか。『バーニング 劇場版』以降、ビニールハウスはのどかな農村の一風景ではなくなったようだ。3月15日から日本で公開される映画『ビニールハウス』(ミモザフィルムズ配給)の日本版ポスターのキャッチは、「半地下はまだマシ」。

 これはビニールハウスが『パラサイト 半地下の家族』に登場した主人公一家の住まい以下であることを示している。いや、半地下だけでない。『スタートアップ:夢の扉』など多くのドラマに登場するオクタッパン(屋上住宅)や、映画『小公女』で主人公(イ・ソム)が住んだテントも「ビニールハウスよりはマシ」なのかもしれない。そもそもビニールハウスは住居ではないのだから無理もないのだが。

 ビニールハウスで暮らすムンジョンは、少年院にいる息子と再び一緒に暮らすことを夢見ながら、盲目の老人とその認知症の妻ファオクの訪問介護士として働いている。ある日、認知症の妻が介護中の事故で死亡。主人公は同じ認知症の自身の母をファオクの身代わりにすることを決断した……。

 ビニールハウスに住む訪問介護士を演じた女優キム・ソヒョン(1973年生まれ)は、本作で第59回大鐘賞映画祭女優主演賞を受賞している。ちなみに、同男優主演賞は『コンクリート・ユートピア』のイ・ビョンホンが受賞した。

 本作でビニールハウスのイメージが固定化してしまわないか心配だが、せめて物語の結末に救いがあることを期待したい。