キム・スヒョンキム・ジウォンが主演している『涙の女王』は、土日に韓国tvNで放送されており、日本でもNetflixで配信されている。

 このドラマは、財閥クイーンズグループの有能な三世のホン・ヘイン(キム・ジウォン)と、同グループの法務部で活躍するペク・ヒョヌ(キム・スヒョン)の「波乱万丈な夫婦関係」を描いてきた。そして、いよいよ結末に向かってますます盛り上がっている。

 改めて、この傑作のストーリー構成を振り返ってみよう。(以下、ネタバレを含みます)

■キム・スヒョン&キム・ジウォン主演『涙の女王』、大ヒットの理由は?

『涙の女王』で序盤から終盤まで特に顕著なのは、話が時系列で進むのではなく、頻繁に過去の場面が挿入されてくるところだ。ときには唐突に過去のシーンが登場してきて、視聴者は「果たしてこれはいつの話なのか」と戸惑うことも少なくないのでは……それゆえ、何度も繰り返し見る必要も出てくる。

 単純にストーリーが時系列になっているとわかりやすいのだが、『涙の女王』はそういうスタイルではない。大事な場面では過去の印象的なシーンが織り込まれる。たとえば、主人公のヘインとヒョヌの子供時代、2人が出会った当時、さらには結婚生活で険悪な時期……そういう場面が随時流れてくる。さらに各話には最後にエピローグがあって、すでに描かれた場面のアクターストーリーがここで説明される。

 このように、何度も時間が巻き戻るという展開が『涙の女王』の特徴だ。そうなると、視聴者は一瞬たりとも見逃さないように緊張感を強いられるかもしれない。

 思い出したのは、ペ・ヨンジュンが「一番好きな映画」と評価していた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』だ。この映画も過去と現在が目まぐるしく入れ替わってきて時系列がわからなくなるところがある。それゆえ、アメリカでは評価がイマイチだったそうだが、その代わり、過去の追憶と現在の様変わりが鮮烈に比較されていて、ストーリーが重層な叙事詩のようになっていた。むしろ、話の流れが単純でないだけ深みが増して内容が記憶にしっかり刻み込まれていたのだ。そんな『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』を心地よく振り返れたのは『涙の女王』のおかげだった。

 正直に言うと、「確かに面白いドラマだし、内容もスケールが大きい」と感じていたものの、それ以上に前半では没入しなかった。しかし、ガラリと変わったのが第8話からだ。この回の最後に急激な展開があったからだ。それは、企業を乗っとられて没落した財閥家の人たちが極端に卑下していたヒョヌの実家に転がり込むという流れだった。

 特に、ヘインの家族がヒョヌの家族の前で車から降りてくる場面は見ものだった。バツが悪そうな財閥家の人たちの表情は三者三様で個性が出ていたが、とりわけヘインの母親(ナ・ヨンヒ)の「そっけなく」装う仕草が目立っていた。どれほど惨めだったことか。それはそうだろう。あれほどヒョヌの母親(ファン・ヨンヒ)に冷酷な態度を取ってきたのだから。

 結局、異様にプライドが高くて優越感にひたりきっていた人たちが、自分が見下していた人たちに屈服する……これこそが人間関係における大逆転の痛快さだろう。