■『殺人の追憶』(2003年)イ・ジェフン主演『捜査班長 1958』に通じる珍場面

 1980年代の脂っこい田舎刑事はソン・ガンホのハマり役だった。知性派の都会刑事(キム・サンギョン)や、冷血な印象の容疑者(パク・ヘイル)との対比で、ソン・ガンホの泥臭い顔芸が堪能できる。

 陰鬱であるはずの取り調べのシーンで、ソン・ガンホ扮する田舎刑事がチャジャンミョンを食べながら、当時の人気ドラマ『捜査班長』のテーマ曲をうれしそうに口ずさむシーンは必見だ。この刑事ドラマは、現在、イ・ジェフン主演でリメイクされ、『捜査班長 1958』のタイトルで配信されている。

 『殺人の追憶』は終盤、血の気の多い田舎刑事が冷静になってゆき、冷静な都会刑事が乱心してゆくという、コントラストの逆転が見せ場である

■『大統領の理髪師』(2004年)『ソウルの春』の予習として観ておきたい作品

 今夏、日本でも公開されるファン・ジョンミン&チョン・ウソン主演の大ヒット映画『ソウルの春』の予習として観ておくべき作品。

 1970~1980年代、李承晩(イ・スンマン)大統領、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領、全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領と続いた軍事独裁政権に翻弄される、おかしくも悲しい理髪師をソン・ガンホが演じている。

 現代史映画にたびたび登場する朴正煕大統領(朴槿恵大統領の父)は、ソン・ジェホ、イ・ソンミンキム・ジョンスなど多くの俳優が演じているが、本作のチョ・ヨンジンがもっとも二枚目だと言われていて、凡庸な理髪師と好対照をなしている。

 ディズニープラスで配信される『サムシクおじさん』予告編を見ると、舞台は1960年代。ソン・ガンホ扮するフィクサーやピョン・ヨハン扮する理想主義者の「国民を飢えさせない」といったようなセリフを聞くと、どうしても李承晩大統領や朴正煕大統領を思い出してしまうのだが、果たして……。

『大統領の理髪師』や『ソウルの春』に登場する光化門と朝鮮総督府(写真は1990年代前半の撮影)
韓国の劇場にて、映画『ソウルの春』のポスター

■『グエムル-漢江の怪物-』(2006年)パク・ヘイルやペ・ドゥナの兄役を好演

 今はラーメンコンビニで人気の漢江の売店で居眠りしながら店番。寝癖の付いた金髪。膝の出たジャージ姿。売り物のスルメをつまみ食いする非常識……。ソン・ガンホ扮するダメ男の演技は説得力抜群だった。 

 見どころは娘をさらって行った怪物との戦いを通して真人間になってゆく過程。ラストシーンでは完全に父親になった男の顔にグッとくる。

 弟を演じたのは『別れる決心』のパク・ヘイル。妹を演じたのは『ベイビー・ブローカー』のペ・ドゥナ。娘を演じたのは、のちに『スノーピアサー』『サムジンカンパニー1995』や『マイ・スイート・ハニー』に出演するコ・アソン。『スノーピアサー』では、再びソン・ガンホの娘に扮している。

(後編につづく)