筆者がいちばん心打たれた描写は、農園で野菜を育てる中高年の女性たちの言葉だった。彼らは金持ちたちが頑丈なシェルターに2、3年分の食料を備蓄していると聞いて、苦虫を嚙みつぶしたような顔をしながらも、どうせ惑星が落ちたらみんなお陀仏だと吐き捨てる。

「ヨルム(大根の若菜)の季節は終わって、今度は白菜を植えなきゃ。来年の春まで食べるキムチを漬けたら何もかもおしまいさ。もう味噌や醤油を作る必要もない」

「急に実感がわいてきたね」

 1970~1980年代は、農家でなくても主婦たちはご近所さんとともにキムチを漬けた。筆者の母親も11月後半から12月、何日もかけてキムチを仕込んでいた。越冬用の大量のキムチを漬け終わると、(当時は素手で唐辛子の薬味をさわったので)「指が痛い」と言いながらも、母の顔は一年でもっとも大事な仕事をやり遂げたという満足感に満ちていた。

 このドラマは、パニックの描写ではなく、こうした韓国庶民目線の終末感描写が秀逸だ。

味噌や醤油作りのための甕(全羅南道・康津)
キムチ漬けは今ではゴム手袋をするのがあたりまえだが、かつては素手で行っていた

●配信情報

Netflixシリーズ『終末のフール』独占配信中

[2024年/全12話]監督:キム・ジンミン『人間レッスン』『マイネーム:偽りと復讐』 脚本:チョン・ソンジュ『密会』『風の便りに聞きましたけど!?』

出演:アン・ウンジン、ユ・アイン、チョン・ソンウ、キム・ユネ