車道から石段道に入った。木立のなかに石段がつづいていた。傾斜はかなり急で息が切れる。10分ほど登っただろうか。急に視界が開けた。前方に修復された城壁が見える。登山道は城壁に沿ってつくられていて、そこを登る人の姿が小さく見える。仁王山の稜線は、かつて王朝を守るための城壁がつくられていた。

 しかし右手を見ると、中型の拡声器がとりつけられていた。そこから左右に塀がのび、その前には黒いネットがかけられていた。

 左手には警告看板があり、そこには軍事施設の撮影禁止という内容の表記が韓国語、英語、中国語で書かれていた。

「ここもそうだったのか」

 調べると、仁王山に登ることができるようになったのは2007年からだった。1968年に北朝鮮による青瓦台襲撃未遂事件以来、入山が禁止されたのだ。いまでも軍事施設がある。

 たしかにこの山は、官邸がある青瓦台に近い。山頂からは眼下のように見えるのかもしれない。

 こんな市内に……。思い出す山歩きがあった。以前に北岳山と白岳山を歩いていた。この仁王山からそう遠くない。仁王山と同じ2007年に入山が許されていた。

 北岳山エリアには、実際、北朝鮮の兵士が侵入した。青瓦台襲撃未遂事件である。登山道にはその弾痕が残る松もあった。各所に韓国軍の兵士の詰め所があり、銃をもった兵士が警備にあたっていた。緊張感があった。仁王山もそんな警戒エリアなのだろうか。(つづく)