Netflix配信ドラマ『貞淑なお仕事』を観始めた。舞台は1992年の田舎町。夫が失職し、困窮した妻ジョンスク(キム・ソヨン)が、その時代には先鋭的過ぎる成人用品(ソンインヨンプム=アダルトグッズ)の訪問販売を始める話だ。
そこで描かれる風物や人々の言動は32年後の今から見ると大変新鮮である。今回からそんな事象を取り上げていこう。(以下、一部ネタバレを含みます)
■1990年代前半の韓国はどんな時代だったのか?
韓国より二十年は早く文化的に成熟した日本では、1990年代と2020年代の世相にそう大きな違いはないだろう。
しかし、我が国はといえば、長く続いた軍事独裁が終わり、1987年に一応の民主化が成ってからまだ数年。1988年、東西冷戦最前線でのソウル五輪成功を経て、1990年にはソ連と、1992年には中国と国交を樹立したり、1991年には北朝鮮とともに国連に加盟したりするなど、激動の時代だった。
『貞淑なお仕事』でジョンスクがアダルトグッズ販売に手を染めたことに対する周囲の反発を見ればわかるように、当時の性に対する意識は今とは比べようもないくらい保守的だった。
軍事独裁時代、反政府的な言動には目くじらを立てていた政権だが、ガス抜きさせないと反発が強くなるとの判断から、酒と性にはおおらかだった。とはいえ、性的な風物が表面化することは許されず、青少年が性的なものにふれる機会は少なかった。
1990年代に入ってもそんな空気に大きな変化はない。第1話の冒頭、高校生男子がこっそり返却ボックスに入れていたようなビデオがせいぜいだろう。