冬のソウルで風邪を引いてしまった。いや、引きかけか。原因は部屋の乾燥だと思った。急いで部屋にあったタオルを水に浸し、軽く絞って床に敷いた。それだけでは足りない気がして、もう1枚のタオルに水を含ませてハンガーに吊るした。
■冬のソウルで風邪を引きかけてしまった……。宿の部屋の乾燥対策は?
泊まっていたのは、安国駅に近いゲストハウスだった。個室を選んだ。共有スペースには何枚ものタオルが置いてあった。
部屋は床暖房だった。スイッチを見ると25度の設定になっていた。部屋は温かいが、乾燥してしまう。
ソウルの住宅は床暖房が一般的だという。ソウルの人はどうしているのだろうか。
その日に会った男性は、部屋に加湿器を置いているという。冬の必需品で、毎日フル稼働だという。
女性からも話を聞いた。
「以前は加湿器を使っていたけど、カビや雑菌が加湿器のなかで繁殖して、それを部屋中にまき散らしてしまうって聞いてやめました。それ以来、濡らしタオルです。寝る前にタオル2本に水を含ませて床に敷きます。朝になるとからからに乾いています。毎日の日課ですね」
皆、それなりの乾燥対策をしていた。以前、ソウルで風邪を引いたとき、薬局に行くと、漢方系のアンプルを大量に飲むようにいわれた話をした。皆、懐かしそうな顔をした。
「そうそう、昔はそうでしたね。会社の給湯室には、その空き壜が溜まってました。でも、最近、薬局にいっても、あのアンプルはすすめられない。流行りだったんですかね。あるいは効果がほとんどなかった……とか」
ひとりの知人が以前にネットの記事で読んだという話を教えてくれた。
──昔の韓国の暖房といったらオンドル。床下に石を敷き、その石を温め、その熱で部屋を温めたという。その後、電気を使うようになって床暖房になった。しかし部屋の湿度のことはあまり考えなかったという。
しかし風邪は引く。昔から風邪を引いたときは水分を多くとることは伝承的に伝わっていた。それは日本も同じだ。そこに韓国の製薬会社が目をつけたのだという。水分といっても水を売ったのでは儲けがない。そこで漢方系のアンプルの発売に結びついたようだった。とにかくたくさん飲め……というのは、製薬会社の販売戦略の一面もあったという。飲む側にしても、ただ水やお湯を飲むより、効果があるような気になる。しかしその後、加湿器が普及してアンプル剤はなんとなく廃れていく。毎日、何本ものアンプルを飲むのはやはり面倒で、出費もかさむ。
部屋を加湿するという発想が、水分を飲むことに代わっていったということだろうか。
