ソウルに着いたのは4月3日の朝だった。その前はバンコクに滞在していた。3月末、バンコクで日本のテレビを観ていると、東京の桜が満開を迎えたというニュースが流れた。

「東京に戻った頃には散りはじめちゃうだろうなぁ……」

 と考えたとき、ソウルの花見を思いついた。バンコクからソウル経由で東京に戻ることになっていた。ソウルの緯度は日本でいえば新潟県あたりになる。東京より桜の開花時期は遅いはずだ。

■韓国ドラマでも印象的な桜のシーン、ソウルで花見をしてみよう

 桜の連想は広がり、桜が登場する韓国ドラマロケ地で花見……。これはいいかもしれないと思った。ネットで「桜ロケ地」で検索してみると、『ソンジェ背負って走れ』『二十五、二十一』『社内お見合い』『スタートアップ:夢の扉』『あなたが眠っている間に』『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』など、さまざまなヒット作品が出てくる。気分は盛りあがってくる。

 ソウルに向かう前、ソウル在住日本人に訊いてみた。『あなたが眠っている間に』の桜ロケは、安山公園管理事務所公園館とOreum Cafeの近くだという。『社内お見合い』は仁川自由公園だった。仁川まで行く時間はなかった。

「安山公園管理事務所公園館って知ってる? その近くにOreum Cafeっていう店もあるようなんだけど。そこで花見を……」

「安山公園? あそこ、めちゃくちゃ広いですよ。ドラマのロケ地みつけるの大変だと思うよ。それにソウルの桜はまだ……3~4分咲き」

 つれない言葉が返ってきた。ソウルの桜が満開になるのは、東京の1週間後ではなく、2週間ほど遅れるといった感覚のようだった。年によって変動はあるだろが。

 ソウル在住の知人と話し、蚕室(チャムシル)に行くことにした。ソウルの桜の名所といったら汝矣島(ヨイド)と蚕室ということになっているらしい。毎年、花見客でにぎわうという。

 蚕室といっても、桜の名所は石村湖水(ソッチョンホス)公園だった。地下鉄駅出口から見ると、ロッテワールドモールの裏手にあたる。

 駅を出たのは夕方5時頃。家族連れやカップルがその方向に歩いていく。進むと仮設テントがつくられたエリアに出、飲み物やポップコーンなども売られている。カフェは店頭に椅子を並べていた。

 駅から5分も歩くと石村湖に出た。人工の湖で、そこを一周する道がつくられていた。ランニングやウオーキングのコースになっているようで、距離表示が出ている。桜のシーズンは花見の道になる。湖を一周するのに20分ほどかかるという。

 湖岸遊歩道にはかなりの人がいて、皆、蚕室方向から見ると、右向きに向かっていく。

「……ん?」

「この公園はけっこううるさくて、右向きの方向に歩かないといけないんです。いつもそうなのかわからないけど、桜の時期は徹底されるんですよ」

 桜は5分咲きといったところだった。日本はソメイヨシノが多いが、この公園はさまざまな種類の桜が植えられていた。ソメイヨシノの派手さはないが、どの桜も味わい深い。

ソウル・蚕室エリアの石村湖水公園。ビルを背景にした桜の写真が定番