ソウルの花見ははじめてだった。韓国人のことだから、そこかしこでソジュという焼酎を囲んだ酒盛りが開かれているような気がした。ソウルを離れ山や海に近い公園に行くと、よくこの酒盛りを目にした。公園のテーブルの上にはさまざまな料理が並び、空になったソジュの壜が何本も並ぶ……。そんな光景である。メンバーは中高年が多かったが。
しかしソウルの石村湖水公園は違った。皆、湖に沿った遊歩道を桜を眺めながらぞろぞろ歩いている。写真を撮る人が多い。カップルが目立つ。
前を歩いて青年がふたり、縁石に座って手にしていたコーヒーを飲もうとした。すると、女性警備員のピピピーッという笛の音が響いた。場所にもよるのかもしれないが、座って飲み物を飲むことは禁止らしい。ソジュの酒盛りなど入る余地がない。
青年ふたりは近くの階段状のスペースに行くように指示されていた。そこは野外コンサートの客席のようなスペースで、多くの人が座っていた。しかしソジュどころか、誰もお茶やコーヒーすら飲んでいない。唯一、若い女性の3人連れが小さなシートを広げ、そこに菓子を置いていたが……。
「厳しいね……」
「韓国人はこうしないと、すぐに大宴会になっちゃうからね」
妙に納得しながら、湖岸遊歩道を歩いた。
日本の花見も飲食を制限されつつある。桜の下での宴会を繰り返したきた僕のようなシニアにはちょっと物足りない。ソウルはその先を進んでいた。
