Netflix配信のグルメバラエティ『隣の国のグルメイト』7話からの韓国編は、『孤独のグルメ』の松重豊を楽しませたい、韓国料理観をもっと広げてもらいたいというソン・シギョンの意気込みが伝わってきて、とても見応えがある。自分が彼の立場だったら、どんな食べ物を、どんな店を選ぶだろうとシミュレーションしながら見るのも楽しい。
韓国編の第1弾でテジカルビを選んだソン・シギョンのセンスには脱帽したが、それがテジカルビで有名な麻浦(マポ)区ではなく、永登浦(ヨンドゥンポ)にある店だったことにも感動した。食べる楽しみとは、料理だけでなく、それを提供する人、店、街ごと味わうことだと彼が知っているからだろう。
ここでは、『隣の国のグルメイト』7話で、二人がテジカルビの店を目指して訪れた永登浦とはどんな街なのか、紹介しよう。
■『隣の国のグルメイト』7話に登場した永登浦、かつては漢江南側最大の繁華街だった
漢江の南側、国会議事堂のある汝矣島の南西方向に位置している永登浦は、日本からの旅行者とは縁遠い街だった。両者の距離が縮まったのは2009年に複合ショッピングモール「タイムズスクエア」ができてからだろう。それ以来、日本の旅行社のサイトやブログなどで永登浦の三文字を少しずつ見かけるようになった。

永登浦は、日本植民地時代にできた紡績工場や機械工場、醤油やビールなどの工場が、植民地支配からの解放後や朝鮮戦争休戦後にフル稼働したため、多くの労働力を吸収して発展。「漢江の奇跡」と呼ばれた経済成長をけん引した街だった。
また、1900年に京仁線、1905年に京釜線など鉄道が敷かれたため、流通拠点としての歴史もある。
労働者が多ければ、彼らの腹を満たす飲食店や、憂さを晴らす遊興施設が繁盛する。そこにもまた労働力が必要となり、地方からソウルドリームを夢見てきた人たちが料理をしたり、給仕をしたり、皿を洗ったりした。手っ取り早く稼ぐ必要があった者は自尊心をかなぐり捨て遊興施設で働いた。
韓国全土が今とは比べ物にならないくらい貧しかった時代のことだ。永登浦駅の周りには、日雇い労働者らが仮住まいする宿泊施設や、労働で疲れた者たちを慰める置屋が今も残っている。
