Netflixドラマ『隠し味にはロマンス』の主人公ハン・ボム(カン・ハヌル)は、母親がCEOを務める大手食品企業の跡目を兄と争っている。ボムは出張先の地方都市・全州(チョンジュ)で丹精込めた料理を作っている女性シェフのモ・ヨンジュ(コ・ミンシ)と出逢い、その腕前に目をつけ、店ごとレシピを買い取ろうと目論む。(以下、一部ネタバレを含みます)
■『隠し味にはロマンス』でコ・ミンシ扮するヒロインが料理人を務めるような店は現実にもあった!?
『隠し味にはロマンス』序盤、ヨンジュは素材にこだわるあまり、営む店は資金繰りが苦しくて立ち退きを迫られている。だが、彼女は傲慢なボムが気に入らず、彼が自分の店で働いて真心を見せれば、申し出を受けてもいいと言う。
韓国の地方の飲食店を取材する機会の多い筆者は、ヨンジュの店のような田舎町の味自慢の食堂や小さなレストランが大企業の論理に飲み込まれていく姿を、この十数年間で何度も見てきた。
思い出すのは、全州南部市場にあったコンナムルクッパ屋だ。劇中、ボムが牛肉の希少部位を買おうとした精肉店も同じ市場にある。
コンナムルクッパとは、全州の特産物である豆モヤシ(コンナムル)の汁かけ飯(クッパ)のことで、韓国では二日酔い覚ましのスープとして知られている。
そこは全州が観光地としてブレイクする前から地元民に愛されてきた行列店なのだが、20数年前、初めて訪れたときは驚いた。60歳くらいのしかめ面の女将が薬味らしき青唐辛子を豪快に刻んでいる。同行したカメラマンが女将の背中越しにシャッターを切ると、振り返って「あんた、撮ったね」とギロリと睨みつける。
カウンターが7、8席だけの小さな店で、待ちきれずに店に入ろうとする客は容赦なく叱責される。どうやら地元ではヨクジェンイ・ハルモニ(毒舌ばあさん)として知られているらしい。


