●韓定食

 全州は朝鮮王朝ゆかりの地なので、宮廷料理の流れをくむ韓定食(フルコース)の店も多い。贅を尽くした料理を夕食に楽しんでもよいのだが、料理をひとつひとつ律儀に食べてしまい途中で満腹になったり、あまりの種類の多さに「何を食べたのか逆に印象に残らなかった」という感想をもったりする人も少なくない。王様気分でひと口ずつ試食するか、ほどほどの量を楽しめる朝食か昼食用の韓定食を選ぶほうがよいかもしれない。

韓屋マウルの民俗旅館で朝食に出された韓定食
全州郊外のレストランで昼食に出された韓定食

●ムルカルビ

 ムルカルビは日本の旅行者にはあまり知られていない。カルビと聞くと焼き肉を想像するかもしれないが、じつは全州の名産、豆モヤシがたっぷり入った甘辛いスープの鍋で豚肉を煮て食べるもの。スープがあるのでムル(水)という文字が冠されている。

 豚肉が使われていることからもわかるように、1970年代に大衆食堂の女将が考案した料理で、肉体労働者たちに愛された。しかし、豚ホルモンなどと違って匂いはないので、今では女性にも人気がある。味付けは甘辛なので、冷えたソジュとの相性もよい。

ムルカルビは豊南洞2街に本店がある「ナムノカルビ」が有名

ピスンデ

『隠し味にはロマンス』2話では、「全州で飲むならカメクかピスンデ屋、マッコリ屋ね」と、ミョンソクが言っていた。そのひとつがピスンデだ。文字通り、牛のピ(血)を混ぜて蒸し煮したスンデ(豚の腸詰)のことだ。血と聞くと日本人は物騒に感じるかもしれないが、フランスにもブーダンノワールという似た食べ物がある。クリスマスに食べるごちそうである。

 ピスンデは独特の風味があるが、ふつうのスンデや日本のレバ焼きが好きな人なら気に入るはずだ。腸詰をそのまま食べるのに抵抗がある人は、スンデクッ(腸詰スープ)を選ぶとよい。腸詰の風味がスープに溶けていて食べやすい。

ピスンデはヨンジュお気に入りの全州南部市場にある「チョ・チョムレ南門ピスンデ」が有名
「チョ・チョムレ南門ピスンデ」のスンデクッ