韓国南西部の地方都市、全州チョンジュ)が舞台のドラマ『隠し味にはロマンス』は、この街のよそいきの風景でなく、生活感のある在来市場や実在する庶民的な飲食店がたびたび登場するため、ソウル釜山をリピートしている日本の旅行者の目にも魅力的に映るようだ。

 全州はソウルから高速鉄道で2時間弱、最短で1時間40分ほどの全北特別自治道の中心都市。『雲が描いた月明り』をはじめとする韓国時代劇撮影地めぐりも楽しめるが、『隠し味にはロマンス』でわかるように、なにより食べ歩きが楽しい街だ。美食の里、全州で食べるべきものをお教えしよう。(記事全2回のうち後編)

Netflix『隠し味にはロマンス』の舞台、全州で食べるべきもの

●炙り干し鱈、卵焼き、甲イカの干物

 路地裏食堂を切り盛りするヨンジュ(コ・ミンシ)、ソウルから都落ちしたボム(カン・ハヌル)、全州の有名な飲食店のドラ息子チュンスン(ユ・スビン)、チュンスンの店の元従業員ミョンソク(キム・シンロク)の4人が仕事帰りによく寄る大衆的なビアホールは、全州ではカメクと呼ばれる業態だ。カゲ(店)+メクジュ(ビール)の合成語で、日本の「角打ち」のような店だが、韓国では座って飲める。

 4人が飲むシーンが撮影されたのは、韓屋マウルから近い慶園洞に実在する「ジョンイル・シュポ」だ。つまみはよく叩かれた鱈の干物を炙ったファンテ(13000ウォン)がメイン。粉を吹く干物で口中の水分がもっていかれたところにビール(瓶3500ウォン)を流し込むのが醍醐味。

 韓国人は別の店で食事をしたあとこの店で飲むことが多いが、日本の旅行者なら一軒目にしてもよいだろう。そのときは卵をたくさん使ったケランマリ(野菜のみじん切り入り卵焼き)とカボジンオ(甲イカ干物の炙り焼き)も試してもらいたい。

全州のカメクにはたいていファンテがある
「ジョンイル・シュポ」のケランマリ
「ジョンイル・シュポ」のカボジンオ

ビビンパ

 花が咲いたようなビビンパのビジュアルは、全州の、いや今や韓国の食文化を象徴するアイコンだ。

 全州のビビンパというと石焼きを思い出す人が多いようだが、あれは全州の専門店がソウル明洞に進出した際、名物として開発したものなので王道とはいえない。20種類もの食材をひとつひとつ丁寧に調理したものを美しく盛りつけたものが正統派である。

 店で食べてもよいが、全州では観光客向けの調理実習もあちこちで行われているので、どれほど手がかかる料理なのか実感してみるのもよいだろう。

韓屋マウルで行われているビビンパ作り体験